「不謹慎」と他人を叩く人たちが映す深刻な問題

コロナの自粛ムードまとう「同調圧力」の危険

わたしたちは自分のことを自分で決められること、自分の人生をコントロールできていてアイデンティティーの感覚が得られることに意義を見いだす。そのような価値観が尊厳のベースにもなっているからだ。

しかし、わたしたち一人ひとりの「自律性と個性」というものは、現代社会を支えているインフラとそれに基づく生活や慣習が何の問題もなく維持されていることに依存している。買いたいときに買いたい物が買える、会いたいときに会いたい人に会えるといった「人間の都合」が実現されている環境下で初めて得られる脆弱なものにすぎない。

今回のパンデミックは地震や台風などの物理的な脅威と異なり、必要な行動・コミュニケーションを困難にする心理的な脅威として強く現れる。自粛ムードはその副産物の1つだ。「未知のウイルス」であり、まだ特性に不確かな部分も多いことから、どこまで気をつけるべきかの見極めに悩むこととなる。とりわけ無症状感染者や風邪と見分けがつかない軽症者がいることが事態を複雑にしている。

「安心」と「自由」のジレンマをギリギリで

社会距離戦略の「社会距離」は、文化人類学者であるエドワード・T・ホールが提唱した対人距離に関する概念に由来する。

ホールは、距離帯を密接距離(相手との距離が0~45cm)、個体距離(相手との距離が45~120cm)、社会距離(相手との距離が120~350cm)、公共距離(相手との距離が350cm以上)の4つに区分した(『かくれた次元』日高敏隆・佐藤信行訳、みすず書房)。社会距離は、知らない者同士や、ビジネスシーンでの会話で多用されるという。

日本では相変わらず満員電車が容認されているが、欧米では、この社会距離を取るということが目下急務というわけだ。例えば、アメリカ・カリフォルニア州の一部で3月17日から発効された「屋内退避指示」では、市民は6フィート(約183cm)の社会距離を維持することが求められている。

これは「人間の都合」を「自然の都合」にできるだけ合わせようと試みる、「安心」と「自由」のジレンマをぎりぎりのところで解消しようとする苦肉の策だ。普段わたしたちは自分たちが動物であることをあまり意識しないが、ウイルスに感染してしまうのは当然わたしたちが動物であり、望むと望まざるとにかかわらず「自然の都合」の中で生きているからだ。

しかもわたしたちは社会的動物であるのでコミュニケーションが必須であり、デジタルデバイスが不足の大半を補うとはいえゼロにすることは困難である。だが、わずかな接触の機会が新たな感染者を生んでしまう。

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