なぜヤンキーはディズニー好きなのか

精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(2)

與那覇:厳しくするくらいなら「ほっといてよ」と思うのに、「でも私に合わせるなら、受け入れてあげるのよ」と追いかけてくる。体罰教師の生徒指導みたいな話ですよね。

斎藤:そうです! 体罰の背景にあるのは母性なんですよ。ルール無き恣意的暴力で包み込もうとする。決してほっといてくれないんですよ。ルールの厳格な適用なら父性的と言えるんですけどね。

與那覇:日本が母性社会だというのは河合隼雄さん以来のテーゼで、一方「戦後日本批判」の文脈では江藤淳が、外圧をかけて日本を近代化しようとするアメリカを父親、それによって壊されてゆく日本の伝統を母親とする比喩を出しました。しかし斎藤さんの見立てでは、日本人はそのアメリカさえも“すべてを包んでくれる無垢なるフロンティア”のように母性化して受け入れていて、だからヤンキーはつっぱってるのにディズニーが大好き(笑)。この点が、従来の日本文化論を大きく前進させたところだと受けとめました。

言語体系と現実の乖離

與那覇:日本文化論として齋藤さんのヤンキー論を読む場合、母性志向ゆえのフェイクさのほかにもうひとつ柱になるのが、“言語を根本的に受け付けない性質”があるという点ですね。

斎藤:言語的な部分の影響は大きそうですよね。最近、フランクフルトのブックメッセに行って、膨大な量の各国の書物を見てきたんですけど、日本とヨーロッパでは書物というものの位置が違う印象がありました。日本の書籍カルチャーは、雑誌的なニュアンスが強いというか、アーカイブ化されずどんどん表層を流れていくような感じがするんです。

與那覇:ストックじゃなくて、フローであると。

斎藤:まさにそんな感じですね。それでなんでだろうと考えていたんですが……。東京女子医大で遺伝学をやっていらした鎌谷直之先生が、日本人は統計学と遺伝学が苦手で、純粋数学は得意なんだということを言っていて、その中でおもしろい仮説を立てられていたんです。日本人は、閉じた世界のシステムを現実と結びつけるのは苦手だけど、閉じた世界の中であれこれ操作するのは得意だというんですね。

與那覇:それはヤンキーよりも、インテリないしおたくの癖ではないんですか。

斎藤:もちろん日本のインテリの話です。しかし、この原理はけっこういろんな領域に当てはまるんじゃないかなと考えたわけです。純粋数学は得意だけど応用数学は苦手だから、統計のように現実と対応しなければならない学問は日本人には向かないと。

與那覇:いま、日本の大学が置かれている問題ですね。インテリが純粋に学問をやっていたら、「現実に応用できないじゃないか、そんなもん」というクレームが政治家から出てきた。自民党文教族って森さんから「ヤンキー先生」まで、ヤンキー度高いですし。

斎藤:日本語で書かれた人文系の理論書が海外ではほとんど翻訳されていない状況になっているのはなぜかといったことも考えていて、これもやはり日本の言語体系と現実が乖離しているということが根深い理由としてあるのではないかとも思ったんですね。

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