キリン幹部が語った「物言う株主」への猛反論 横田CFO「ビールだけでは生き残れない」
――IFPは、キリンの医薬関連事業をすべて手放すよう要求しています。
ビールビジネスだけやっていれば、確かにわかりやすい。新しいビジネスは評価しづらいし、どれだけマーケットがあるのかもわからない。「やめろ」という声も一定数あるのは確かだ。
だが、ビールだけで本当にいいのか。ビールビジネスは特に、先進国で成長が停滞している。日本だけでなくアメリカや中国、オーストラリアも同様だ。成長機会が限られる中、低い成長率で本当に株主は許容するだろうか。
当社にはあらゆるステークホルダーや従業員がいて、社会貢献もしないといけない。持続可能な企業体を作っていくためにも、より高い成長を考えると、ビールとは別の柱がいる。これは取締役会でも、社外の方を含めて繰り返し議論を重ねて描いた構想だ。2027年を最終年とするKV2027を大きく軌道修正するタイミングではないので、描いた構想に向かって実績を残していきたい。
主要な機関投資家は、私どもの方針を理解していただいている。IFPともしっかりと対話を続けて理解いただけるように努めたい。もちろん株主総会でも、どれだけの方に支持いただけるかを確認しないといけない。
医薬事業は内部創出した
――IFP側は多角化について、「これまで取り組んだ企業の多くが成功しなかった」と指摘しています。
キリンHDが進めている多角化は、当社が持つケイパビリティ(企業が持つ強み)や経営資源を活用したビジネス展開だ。これまで培った経営資源がまったく生かせない分野を手がけるつもりはない。
ネスレは医薬会社を外部から買って、事業化した。それに対しキリンHDの場合、既存事業の研究開発で培った発酵、バイオ技術などの成果を医薬の領域にも展開した。その意味では、医薬事業は内部創出したといえる。
例えば、富士フイルムホールディングスも、写真フィルムのビジネスで蓄積した合成技術や精製技術などを活用して、複写機や医薬品、医療機器といった事業を多角的に展開している。当社の多角化は、それに近いイメージだ。2012年に倒産したアメリカのコダックも、人材や技術などのリソースをうまく使えば事業転換もできたはずが、彼らはそれをしなかった。気がついたときには、写真フィルムのマーケットはほとんどなくなっていた。
ビールは市場がなくなることはないと思うが、昨今の消費者の行動や様々な規制の動きを見ると、市場の先行きにはかなり不透明なものがある。