こうした症状は、ウイルス以外にも、患者自身の基礎疾患や酸素不足が誘因になることがある。だが、気管挿管によって患者の酸素不足は速やかに改善していた。頭部CT検査や脳脊髄液の生化学検査(訳注:血液や尿、細胞の一部を採取して行う化学的な分析)を経て、地壇病院は患者の基礎疾患が誘因である可能性も排除。最後に患者の脳脊髄液から新型コロナウイルスを検出し、臨床症状とあわせてウイルス性脳炎と診断したのだ。
どうやって脳脊髄液に侵入したのか
ただ、脳脊髄液から新型コロナウイルスが検出されたからといって、新型コロナウイルスが中枢神経系に感染したと確定できるだろうか。
あるウイルス学者や臨床医師は、確実な証拠を得るには、患者の脳の生検(訳注:生きた人間の組織の一部を採取して行う検査)で新型コロナウイルスが発見される必要があると指摘した。この患者は2月25日に全快し退院したため、脳の生検を受けていない。
とはいえ、この症例は重症・危篤の新型肺炎患者を治療するうえで非常に参考になる。救急を担当する地壇病院重症医学科主任の劉景院は、科の公式SNSアカウントで、「一部のすぐに死亡した新型肺炎患者は意識不明状態になったことがあり、ウイルス性脳炎が原因の1つかもしれない」と、医療関係者に注意を促した。
新型コロナウイルスはどうやって患者の脳脊髄液に侵入したのか。脳炎の治療経験を持つ新型肺炎指定病院重症科のある医師によると、1つの可能性は咽頭からの侵入だ。この患者の咽頭には新型コロナウイルスが集中していた。のどは脳に近く、とくに副鼻腔は脳から1層の組織を隔てただけだ。
だが、この侵入経路である可能性はとても低いという。「ほぼすべてのウイルス性脳炎は、血液を通して感染するものだ」と前出の医師は話す。今回の患者の場合、まずウイルスが肺に感染し、その後ほかの部位に感染したと同医師はみている。
人体の血液は肺を通って酸素と結合し、それから全身をめぐる。肺胞にウイルスがいる場合、ウイルスは肺胞から血液に入り、それから脳脊髄液へと侵入する可能性が非常に高い。
ほかにも、新型肺炎患者の病理解剖(訳注:病死者の死因などを解明するために行う解剖)によって、ウイルスがリンパ系に進入しうることがわかった。脳脊髄液がリンパ系を通じてウイルスに感染した可能性も高いという。
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