保険適用でも気軽に使えない「PCR検査」の実態 臨床現場では「必ずしも重要でない」との声も

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安倍晋三首相が簡易検査キットの開発を指示し、3月中をメドに簡易検査キットの開発が急ピッチで進められている。日水製薬(4550)では既存技術を用いたリアルタイムPCR検査機器とキットの販売を開始するし、栄研化学(4549)や医学生物学研究所(4557)では、それぞれ独自の遺伝子検出技術を使って新しい試薬開発に着手している。栄研化学は「検体から1時間以内に新型コロナウイルスを検出する」と意気込む。

「4日待て」ということではない

だが、東京都医師会の鳥居明理事は「PCR検査は必ずしも重要ではない」と明かす。臨床現場では、検査をするなら酸素飽和度を測るパルスオキシメーターという小型の経皮簡易測定器で十分、という指摘がある。

呼吸苦のある患者については、肺炎を疑い、動脈血の酸素飽和度を測る。そのために使われるのがパルスオキシメーターで、酸素飽和度が90以下であれば肺炎として治療を開始する。パルスオキシメーターは、内科クリニックであればほとんどの施設にあるという。

そもそもPCR検査は疾患を特定するだけであり、治療方針には影響がない。肝心の新型コロナウイルスに効く治療法や治療薬は、まだ特定されていないのが現状だ。

新型コロナであろうがほかの疾患であろうが、感染症対策は変わらない。

新型コロナも初期はかぜと同じような発熱と倦怠感、乾いた咳などの症状がある。軽症のうちは家で安静にし、家族にうつさないようにマスクをし換気をする。健康な成人で4日以上、高齢者や基礎疾患のある人は2日以上症状が続く場合はかかりつけ医に電話で相談し、必要なら帰国者・接触者外来にも相談する。

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ただ気をつけたいのは、2日、4日という日数は制限ではないということ。日本医師会の釜萢敏常任理事は、「具合が非常に悪いのに4日待てということではない。普通なら4日もたてば軽快するのによくならないのであれば、積極的に連絡してほしい」と呼びかけている。

世界的な流行を受けて製薬会社の動きも活発だ。グローバル大手のアメリカのギリアド・サイエンシズが既存薬の新型コロナへの適応で治験を行っているし、グローバル感染症の治療薬開発に積極投資しているゲイツ財団でも、家庭で検査可能な簡易キットの開発を急ぐと報じられている。

国内勢も富士フイルムホールディングス(4901)傘下の富士フイルム富山化学がインフルエンザ薬アビガンの適応拡大治験を始めているし、3月4日には武田薬品工業(4502)が抗体医薬で治療薬開発に着手と発表、翌5日には大阪大学の森下竜一教授とアンジェス(4563)、タカラバイオ(4974)がDNAワクチンの開発着手を発表した。感染研や東大医科学研究所でも国の支援を受けてワクチン開発に取り組んでいる。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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