保険適用でも気軽に使えない「PCR検査」の実態 臨床現場では「必ずしも重要でない」との声も

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とはいえ、検査を行う医療機関は全国800カ所ほどの帰国者・接触者外来に限られている。現状では、希望すれば誰でもかかりつけ医で検査を受けられるわけではない。

今行われているリアルタイムPCR検査は手順が複雑で技術的にも難しく、大量・短時間の検体処理には向いていない。指定医療機関で患者から痰や鼻・のどの奥に綿棒を突っこんで検体を採取し、マイナス80℃以下で保存して検査所に運搬。検査所では検体からウイルスの遺伝子を抽出(前処理)し、増幅させて解析する。

「前処理に2時間ほどかかるため、最終的にデータが取れるまで約6時間かかる」と検査所を持つ企業は説明する。採取、運搬にかかる時間、多数の検体が集まっている場合の順番待ちなどを考慮すると最短でも1日、通常数日はかかる。民間検査所には通常業務もあり、新型コロナウイルス検査だけにかかり切りになるわけにはいかない事情もある。また、こういった感染症ウイルスの検査にあたっては安全確保の観点からBSL-2(バイオセーフティレベル2)の施設と技術者の熟練が必須だ。

インフルエンザの迅速検査とは違う

検体を採取する医療者にもリスクがある。採取時に患者が咳き込んだりくしゃみをすると飛沫を浴びて感染してしまうため、防護服や採取場所の選定、採取後には部屋の消毒も必要だ。こうした施設や用具を用意できない医療機関では検体採取は行えない。かかりつけ医で鼻の奥で綿棒をぐりぐりしてから10分ほどで結果が出るインフルエンザの迅速検査とは違う。

しかも、これほどのリスクを冒す検査にもかかわらず、検査精度はそれほど高くない。ウイルス陽性の検出は20~60%程度ともいわれている。のどや鼻の奥で採取したときその部位にたまたまウイルスがいなければ陰性になるが、実は体内にいるということは少なからずある。

特に感染早期や軽症患者では、たとえウイルスを採取できたとしても少量すぎて検出レベルにまで増幅できず、陰性になることもある。こういった「偽陰性」患者が普段通りの生活をしていると、感染を広げてしまうリスクがある。逆に、感染していないにもかかわらず陽性反応が出てしまう「偽陽性」もありうる。

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