より竜宮城らしく!小田急「江ノ島駅」の本気度 屋根に黄金のイルカ、天井には隠れキャラも

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かつての駅舎は1929年4月の開業以来、竜宮城スタイルで長年親しまれてきた。小田急によると、場所が海に近いことから海をイメージさせるデザインとして竜宮城をモチーフにしたようだ。当時の新聞は「片瀬江ノ島駅は工費1万8000円で妙に凝った竜宮城式で……」と報じたと『小田急五十年史』(小田急電鉄)にある。

かつての片瀬江ノ島駅舎(記者撮影)

旧駅舎は、実は当初「仮設」だった。『五十年史』によると、現在の江ノ電とは別の「江ノ島電気鉄道」という会社が大船―茅ヶ崎間の路線を計画しており、この線と小田急江ノ島線が平面交差してしまうためだったという。もし江ノ島電気鉄道が開業すれば立ち退きの運命にあった。

だが、江ノ島電気鉄道は資金難で何度も期限の延長を繰り返しており、実際には着工のメドが立っていなかった。そこで、名目上は「仮設」ながら凝った本格的な駅舎を建てたとみられる。

江ノ島電気鉄道の計画はその後立ち消えとなり、旧駅舎は開業以来約90年の長きにわたって使い続けられてきた。建物の構造は決して「仮設」ではなくしっかりした造りだったものの、近年は「直しながら使っていた」と関係者はいう。

観光資源として期待

片瀬江ノ島駅は1999年、運輸省(現・国土交通省)が公募などによって関東運輸局管内の特徴ある駅を選ぶ「関東の駅100選」に選定。藤沢市の観光公式ホームページでも「観光施設」「景観フォトスポット」として紹介されるなど、駅舎は交通の拠点を超えた地域のシンボルとして定着している。

記念撮影する人も目立つ片瀬江ノ島駅の新駅舎(記者撮影)

小田急によると、駅舎のリニューアル計画が始まったのは2016年の夏ごろ。前年に江の島が2020年東京五輪のセーリング会場に決まったことや、建物の老朽化が進んでいたことが契機となった。計画開始当初は竜宮城スタイルにするかどうか確定していなかったが、長年親しまれてきた旧駅舎のイメージを尊重して「竜宮造り」とすることを決めたという。

本格的な竜宮造りに生まれ変わった駅舎に、地元も従来以上に観光資源として期待を寄せる。「新駅舎は日本の伝統技術が使われ、外国人観光客も感銘を受けるのではないか。駅を1つの目当てとして、地域を訪れる人がさらに増えてくれれば」と、藤沢市経済部観光シティプロモーション課の職員は話す。

駅に降り立った多くの人がつい振り返ってカメラを向ける新駅舎。童謡「浦島太郎」で竜宮城は「絵にもかけない美しさ」とうたわれるが、SNSで写真映えするスポットが人気を集める中、「竜宮城の駅」は絵ならぬ写真に「映えるスポット」として人気を集めることになるだろうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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