佐藤浩市が振り返る「Fukushima 50」と3.11 「後世に伝えるために作品を作る意義がある」

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――改めて今、3.11を振り返ってみて、いかがでしたか。

3.11のときは仕事が早めに終わって、帰路の途中でした。あのときはマスメディアも、カメラが写しだした被災地の映像を流すか流さないか、これを流した瞬間にどうなるか、かなり腐心したと思うんですよ。

それはメディアが抱えている問題としてもそうだし、僕自身としても、これから表現をやっていくうえで、どういうふうになっていくのか。この経験が大きかったと思います。

さとう・こういち/1960年生まれ、東京出身。映画初出演の『青春の門』(1981年)で第5回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『忠臣蔵外伝四谷怪談』(1994年)、『64 -ロクヨン- 前編』(2016年)では、同賞の最優秀主演男優賞、『ホワイトアウト』(2000年)、『壬生義士伝』(2003年)で最優秀助演男優賞を受賞している。近年の出演作品は、『愛を積むひと』(2015年)、『花戦さ』(2017年)、『北の桜守』(2018年)、『友罪』(2018年)、『空母いぶき』『ザ・ファブル』『記憶にございません!』『楽園』(2019年)など (撮影:ヒダキトモコ)

――震災から9年経ったからこそできることもあるのではないでしょうか。

公共の電波でも、津波の映像を流す場合には「これから津波の映像が流れます」とテロップが流れるわけじゃないですか。確かにメンタルケアとしてそれが必要だと思いますし。それはメディアが判断することだと思います。そしてそれはエンターテインメントの商業映画としても、そういうことを後世に伝えるために考えないといけないことだと思います。

――肌感覚として、3.11の記憶が風化しているようにも思うのですが。

人間というのは、本当に素晴らしく。どんなことがあっても忘れることができるんですよね。だからつねにチャレンジして、そのハードルを越えていくことができる。ただ、そうした忘れるという素晴らしい才能を持つ反面、人間が忘れてはいけないこともつねにある。それが災害であり、戦争の爪あとですよ。それだけは忘れちゃいけないんだ、後世に伝えるんだということを、うまく具現化できればいいかなと思います。

「負の遺産」のままで終わらせてはいけない

――忘れてはいけないためにこの映画があるのだと。

何度も言いますが、やはり負の遺産を負の遺産のままで終わらせちゃいけないということですね。

例えば桜というのは、人間のために咲いているわけじゃないですよ。だけど人間は桜の花を見て、いろんなことを思うわけじゃないですか。そういうことだと思うんですよね。そうしたことがうまく自分たちの中でアレンジできれば、我々の爪あとも次の世代に対して遺産としてバトンを渡せるんじゃないかなと思います。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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