各国中銀の政策協調もドル安円高は止められず 順当にバトンをつないだが効果は限られる

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リーマンショック直後となる2008年 10月8日にはFRBとECBを筆頭とする欧米主要6中銀が協調利下げを実施する最中、日銀だけがこれに参加せず、流動性供給拡大などで足並みを揃えるということがあった。この際、内外金利差縮小が意識された上にリスクオフムードに押された円キャリー取引の巻き戻しも相まって、急激に円相場が上昇するということがあった。しかし今回は、少なくとも利下げという最も分かりやすいアクションに関しては、糊代の小さい「仲間」が沢山いるので、日銀だけが取り残されて円高ということは考えにくい。

協調行動は金融政策(中銀)に限らず、財政出動(政府)への期待も大きい。ECBは声明文の中で「的を絞った手段(targeted measures)」というフレーズを使っていたが、これはむしろ政府の財政出動に期待される論点となる。各国によってダメージの深い経済主体や部門が異なるため対応も多岐にわたってくるはずだ。

すでに日本では一斉休校に伴う保護者休業への助成金や売り上げ急減に直面している中小企業への借入保証などが報じられているが、今後も飲食・宿泊などを中心に観光産業の軸を担ってきた業種への手当てが発表されそうである。また、個人消費が半強制的に停止に追い込まれている以上、ここに手を打つ必要もあるだろう。最も手っ取り早い政策として6月で終了するキャッシュレス還元措置の延長などはあり得る。

ちなみに、こうしたマクロ経済の特定セクターへの措置という意味では日銀が成長基盤強化や被災地金融機関の支援といった名目ですでに有している資金供給が今後、形を変えて、疫病対策オペとして活用される可能性がある。

金利低下やドル安の阻止は難しい

もっとも、政府・中銀の刺激策で新型コロナウィルスの感染拡大が止まるわけもなく、あくまで対症療法である。確かに、資産価格の急落を放置すれば陰に陽に実体経済も影響を受けることは確実であり、不可逆的な傷を負う前に手を打ったことは適切である。

しかし同時に、感染拡大ペースの減速が視認されるまでは想定外のヘッドラインに怯えながら、苛烈な価格変動におびえる日々が続かざるをえない。為替市場を展望する立場からは、理由はどうあれ、最も利下げ余地のあるFRBが対症療法的にカードを漫然と切らされ、それに付随してアメリカ金利が(他国と比較して)相対的に低下、足かけ6年に及ぼうとしているドル高局面がいよいよ巻き戻されるという順序で思考をめぐらせたい所だ。

一連の政策協調姿勢を受けて株価こそ大きく戻っているが、アメリカ金利やドルにはやはり復調の兆しが見られない。長すぎたドル高局面だけに、まとまった幅・期間で調整してももともと不思議ではなく、コロナショックがその契機となった疑いがある。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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