臨時休校、「iPad」活用の先行事例に何を学ぶか

公立校で初めて導入、成績が上がった熊本市

iPadが先行導入されている熊本市立楠小学校で、4年生の担任、山下若菜教諭の授業を見学させてもらった。今回は算数。仮分数、真分数、帯分数などを、3年生に教えるムービーを作ろうという授業だった。

すでに3人のグループと担当する分数の種類を決めたうえで、30分あまりで撮影し、最後の10分で披露するという流れだった。生徒たちは、色水やホワイトボードに貼り付ける磁石などを使って、思い思いに分数の概念を収録していく。

使っていたアプリはiPad上のアプリ「Clips」。録画中に音声を認識して自動的に字幕をつけたり、アニメーションを加えるなど、手軽にビデオを完成させることができるアプリだ。驚かされるのは、ツールを使いこなしていることもさることながら、どうすれば分数を表現できるかを自分たちで考えている点だった。

iPadが導入されて以降、学ぶ単元を子どもたちが考え抜いてアウトプットとしてまとめるスタイルの授業が顕著になったという。授業を担当していた山下氏に話を聞いた。

「もともと、タブレットは持っておらず、iPadも大歓迎というわけではありませんでした。2018年9月に市から提供され、最初は写真を撮ってみては?と使い始めました。ただ、これを取り入れた授業の勝手がわからないし、iPadを使った授業のアイデアの提案すべてが面倒に感じられました」(山下氏)

それでも、タブレットの目新しさで子どもたちが活き活きとしている様子を見て、あるからには使ってみようと取り組みが始まった。

「はじめは今までの授業に載せて使っていました。課題をやって提出してみましょう、と。しかしこれでいいのか?という思いがつねにありました」

教科書が「最新の情報」でないことがわかった

1つ、転機となったのは、社会科の授業で消防署の仕事について学んだときだったという。教科書には、ブーツと防火服を脱ぎっぱなしのように床に置き、出動を早める工夫が写真付きで紹介されていた。

しかし「本当にそうなの?」という疑問を子どもたちに投げかけ、iPadからテレビ会議アプリ「Zoom」を使って消防署とつなぎ、インタビューをした。すると、現在は、躓いたりすることを防ぐため、教科書のような準備はしていないことがわかった。教科書の内容が最新の情報ではないことに、子どもとともに気づいた瞬間だった。

「実際にやれることが広がりました。やってみてわかることもあれば、子どもたちがわかっていたつもりのことが覆されることもあります。そうした課題作りが重要で、ICT以前から大切でしたが、iPadの導入で子どもたちの選択肢は明らかに広がりました」(山下氏)

授業風景は一変した。先生が黒板に板書するのはその日やるテーマを説明する冒頭ぐらいで、あとは個人やグループごとの課題に取り組む。これを発表し、お互いのアイデアから学びを得る。アウトプットや教室内外との交流を重視する方針でICT整備を行った熊本市の目標を、具現化していた。

しかし変わったのは授業風景だけではなかった。山下氏は、iPadを用いた国語の「ごんぎつね」の単元で、その結果に衝撃を受けた。クラスのほとんどの子どもたちが、100点を取ったのである。

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