臨時休校、「iPad」活用の先行事例に何を学ぶか 公立校で初めて導入、成績が上がった熊本市

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「国語の物語文『ごんぎつね』を音読し、これに合う音楽をつけようという授業にチャレンジしました。今までは音読を宿題としていましたが、生徒によってその量はまちまちでした。しかし音楽を付けることになると、勝手に音読を何度もして、その場面の登場人物の気持ちを深く読み込むようになった。結果、本質を突く理解に発展しました」(山下先生)

単元テストの物語の平均点は80点程度だったが、「ごんぎつね」では95点になり、それまで余り点数が伸びなかった漢字や文法のテストも点が取れるようになった。上位の子たちは変わらなかったが、それまで点を取るのに苦労していた子も95点取ったことは、驚きとともにうれしかったという。ICT教育による授業の変化は、テストの点数にも表れたのだ。

「教員としても、自分の解釈を押しつけなくても、子どもたちが自分たちなりの解釈をし、子ども同士で話し合うようになりました。全員が考え、自分たちで問いを持つようになりました。その問いを証明するためにどうすればよいのかを提案し、自分たちで解決する。わかった生徒は喜んでわからない子どもに説明する。個人個人を見られるようになりました」(山下先生)

1人1台はもはや必須に

熊本市立楠小学校は、2018年夏からiPadが先行導入され、3人に1台の体制で整備された。しかしiPadの活用が進んでいくと、クラスごとにiPadの取り合いになっており、譲り合いながら授業で活用しているのが現状だ。その様子からもわかるとおり、いったんICTを授業に取り入れ可能性が広がった教育現場にとっては、1人1台の体制を整備することは急務だ。

山下氏は、iPadだったのでこのような活用ができたという。もし導入されたデバイスが可搬性に乏しくカメラでの撮影・編集機能が充実していないパソコンだった場合、授業の幅は狭まると指摘する。キーボード入力を学ぶことも重要で、ローマ字の単元で取り入れているが、それ以外の場面ではタブレットならではの、自由に動き回って活用できる強みがある。また、1クラス30人分の端末を、子どもたちが3人ほどで手分けして準備できるのも、iPadならではの機動力だ。

「先生だからといって、自分ができるようにならないと教えられないわけではないと思います。子どもたちのほうが習得が早いので、一緒に学んでいく、あるいは教えてもらうぐらいでいいのではないでしょうか」と、山下氏は子どもとともに試行錯誤のプロセスから授業スタイルをつかんでいく成功パターンを示してくれた。

そのためには、ある程度自由にデバイスを与えて、子どもに創意工夫させる部分があるかどうかがポイントとなる。管理は必要だが、制限が問題を解決するわけではない。道具として使いこなすことを学べるかどうかが本質だ。

そのため、教育委員会や学校、教員も、ICTを使うことそのものにこだわったり、振り回されたり、目的化せず、子どもたちの意欲や試行錯誤、気づき、発表などの機会を伸ばしていくことに注目すべきだろう。

山下氏は2020年度に向けて、LTE対応のiPadを武器に、学びの中に内外とのコミュニケーションを活発に取り入れていく挑戦をしていくという。ICTを味方につけた学びはどんどん加速し、そうでない学習との差は広がる一方になっていくだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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