臨時休校、「iPad」活用の先行事例に何を学ぶか 公立校で初めて導入、成績が上がった熊本市

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文部科学省は、12月13日に閣議決定された令和元年度補正予算案で、生徒1人1台にデジタルデバイスを配備し、これを活用する高速ネットワークの一体整備の費用が盛りこまれた。

萩生田光一・文部科学大臣は「GIGAスクール構想」を掲げ、「1人1台端末環境は、もはや令和の時代における学校のスタンダード」として、子どもたちに個別最適化され、創造性を育む学びを提供するとしており「学校教育は劇的に変わる」と展望を述べている。

2018年から始まった「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」に基づいて、地方財政措置で3人に1台のデバイス配置が進んできた。今回の補正予算では、さらに1人1台まで台数を増やす計画だ。

熊本市が公立校として初めてiPadを導入

教育にICTを導入することによる効果を狙った教育改革の施策で、教育そのものが大きく変革する可能性を持っている。では、どのようなデバイスを活用し、どのように教育を変革していくことができるのか? 同時に通常の教育が維持できない緊急時にも「教育を止めないインフラ」として、ICTの活用が進んでいくべきだ。

iPadの導入と活用に向けた環境整備や教員向けの研修などは、熊本市教育センターが行っている。同センターの教育情報室 指導主事、山本英史氏に話を聞いた。

「2018年度より熊本市立の全小中学校へ、iPadや電子黒板などの整備を開始しました。現在までに100校1万6500台が運用されており、2020年4月から、小中学校すべてに2万3460台を導入し、2020年の新学習指導要領に対応します。3クラスに1クラス分の学習者用コンピュータと、教員用1人1台を導入します」(山本氏)

熊本は2016年4月に発生した「熊本地震」で震度7を2回記録し、その後も震度6強、震度6弱の地震が相次いだ。熊本城に大きなダメージがあり、現在も修復作業が続いているが、地震直後の判定で「危険」とされた市内の校舎は134棟にのぼり、教育の復旧、修繕にも大きな予算支出が強いられた。しかしiPadによる教育改革も同時に急ピッチで進めている。その狙いについて聞いた。

「整備を決定したのは大西一史市長と教育長のトップダウンで、公立学校へのiPad大量導入後、初めての事例となりました。未曾有の災害を経験し、子どもたちがこれから先、生き抜く力を養わなければなりません。これから100年、未来への礎作りと考え、子どもたちにいち早く提供しなければならない。そのため、予算として30億円が投資され、一気に行き渡るよう環境を整備しました。未来への投資、というのが市長の考えです」(山本氏)

熊本市が公立学校として初めてiPadを導入、しかもセルラー版を選択した理由も、災害の経験が関係していた。

「パワフルで機動性が高く、バッテリーが持つためどこへでも持ち運べます。また操作は覚える必要がないほどシンプルで、安定した通信も確保できる。加えて、音楽や映像などの制作による表現ができ、特に力を入れたいアウトプットのツールとして最適でした」(山本氏)

学校の復旧を経験しながら、さらなる設備投資を避けること、そして持ち帰り学習の際に家庭にネットワーク環境がない場合でも、きちんと学びを継続できるようにすることが目的だった。

学びを止めないためのツールとして、LTEによる通信がつねに確保できるセルラー版のiPadが選ばれたのだ。

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