水素がここへ来て一段と有望になってきた理由 80年超の歴史持つ岩谷産業が起こした製造革命
牧野:2つあります。まずは、特別な仕様の機器やパイプの材料に高額な費用がかかります。規定された特別な材料を使用するという規制があって、日本の場合はドイツやアメリカよりも基準が厳しいのです。ガソリンスタンドぐらいの設置費用にするには、技術を磨いて使用する材料などの耐用性を国にも示し、規制緩和をしてもらう必要があります。
もう1つの理由は、水素ステーションには資格を持った人を常駐させる規制があって、これも費用がかかる要因です。
日本での規制改革はこれから行われると思いますが、そうなると建設費や運営費なども下がってくると思います。乗用車やバスだけじゃなく、今後はトラックや船舶にも水素エネルギーが使用されるようになってくると思います。
渡邊:水素をつくること自体にコストがかかりますが、それを供給することにも設備や人件費がかかってきてしまうということですね。
牧野:燃料電池自動車向けの水素の価格はガソリンハイブリッド車と同程度にしているので、燃料電池自動車とガソリンハイブリッド車の1キロメートルを走る燃料コストは実はほぼ同じなんです。
国は補助金を出していない
真山:それは意外です。水素自動車の利用促進のため、国が補助金を出しているのですか?
牧野:いえ、水素そのものの価格には補助金をもらっておりません。JXTGホールディングスや弊社が普及することを主眼にして、水素の価格を戦略的に下げています。それぞれの企業の心意気でやっています。
真山:水素エネルギーを用いた宇宙ロケットは、液化水素と液化酸素を注入し続けて着火します。何百トンもある宇宙ロケットを打ち上げるためには、莫大なエネルギーが使われます。
ロケットの打ち上げを見たときに、「すごい」と思う人と、「怖い」と思う人がいます。後者は、あれほどのエネルギーを生む水素燃料を、家や町の近くに置いて危なくないのかと思います。これはよくも悪くも日本人の慎重なところです。
とはいえ、成果を求めるあまり一足飛びにやると、事故のリスクが伴います。拙速に進めたことで、小さな事故で抑えられずに大事故が発生すれば、途端にせっかくのプロジェクトが止まってしまうのです。
つくっている側が「大丈夫」といっても、3.11の原発事故を経験した日本人の多くは、「よくわからないけれど莫大なエネルギーを生む設備は、危険ではないか」という不安と、新エネルギーへの期待とのせめぎ合いがあるのです。