水素がここへ来て一段と有望になってきた理由 80年超の歴史持つ岩谷産業が起こした製造革命
牧野:製造コストの大幅な低下です。水素はマイナス253℃で冷やすと液体になり、体積が800分の1まで小さくなって貯蔵や輸送がしやすくなりますが、そこまでの温度に冷やすのには莫大な電気代がかかってしまうことから商用化は難しいと言われていました。
私は1988年に、ユニオンカーバイドというアメリカの老舗化学会社に1年ほど在籍した経験があるのですが、そこで学んだ低コストで水素をつくる方法を応用しました。液化窒素でマイナス196℃まで冷やし、そこから液化するマイナス253℃までを電気で冷やすという方法を開発したのです。電気代を大幅に抑え、液化水素の製造コストを下げることに成功しました。
それでも商売として成り立つのかという反発もありましたが、「私たちがやらなければ誰がやるんだ」という使命感から、液化水素プラント建設は私が決断して進めました。
渡邊:まずガスで冷やし、さらに電気で冷やすという2段階方式でコストを抑えるんですね。
水に例えてみると…
真山:イメージするのが難しいですが、水に例えるとわかりやすいです。水は氷点下で凍りますが、その環境を人工的につくるためには、冷凍庫が必要です。
同様にしてマイナス250℃台まで温度を下げるには大量の電気が必要で、コストがかかりすぎます。代わりにもともと低温の液化天然ガスの冷熱を使うことで、圧倒的にコストが下がります。岩谷産業にとっては既存事業とのつながりもあるからこそ、ほかとは差別化された独自性が生まれますね。
渡邊:水素の製造コストは徐々に下がってきている一方で、一般への普及のハードルはまだまだ高いのが現状です。水素をエネルギーとして一般的に広げるとすれば、水素を燃料として走る燃料電池自動車の普及が有力な流れとなります。ただ、ガソリンスタンドの設置費用が約1億円なのに対し、水素ステーションは約5億円もかかると言われます。設備に特殊な素材や安全装置が必要なのが高コストの理由でしょうか。