期待されて異動した若手社員が酷評された理由

求められる仕事を本人に明示しない組織の罪

「わかりました」島村は、うつむき加減のまま返事をし、唇をかみしめていた。

「マネージャーのおっしゃることは、もっともです。しかし、なぜ最初に明確に私に求める仕事レベルを言ってくれなかったのですか」

こう言いたいのを我慢していたからだ。

部門や役割ごとに評価基準を明確に示すことが重要

これは、社員の実力と仕事ぶり、そのパフォーマンスはほとんど変わっていないが、人事異動によって評価結果が大きく変わってしまったという事例である。同じようなことを自分自身で体験したり、見聞きしたりしたことがある方も多いのではないだろうか。

言うまでもないが、本来会社は、社員に求める仕事の役割やレベル、ゴールは、本人が理解できるようにあらかじめ明確に示したうえで、業務に取り組んでもらう必要がある。島村が大きく評価を落としてしまった要因も、そもそも総務部とマーケティング部で求められる仕事の内容とレベルが違ったからだ。

しかし、異動したばかりの島村に、自ら考えて自分の役割と貢献ポイントを見いださせるのは難しい。そして期待していた仕事に取り組まなかったからといって、本人の責任とするような組織では、生産性向上は実現できないことだろう。

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この部門ごとに求められる役割と成果を明確に示すことができるのが「評価基準」である。「評価基準」を部門、あるいは職種ごとに作成し、社員に説明し、あらかじめ渡しておくことで社員全員に本来求められる役割を落とし込むことができる。

こうして、あらかじめ明示した「評価基準」をもとに評価を行うことで、評価者による甘辛などの偏りも修正することができる。社員一人ひとりのモチベーションを高めながらその能力を引き出すためにはなくてはならないツールである。

にもかかわらず、島村の会社のように、現実は評価基準がない、もしくはあってもそれが社員に伝わっていない企業は少なくない。島村のようなモチベーションの高い社員のやる気を無駄にすることなく、生産性を向上に直結させるためにも、とくに中小企業の社長、経営者は「仕事のものさし」づくりと、その「ものさし」の組織への浸透に取り組んでもらいたい。

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