あの湘南美容グループ「がん免疫療法」の真相 告発スクープ!有効性を示す論文はなし

拡大
縮小

ではなぜ日本ではEBMに程遠い免疫療法が横行しているのか?

保険診療には厚生労働省などの厳しいチェックの目が入るが、自由診療は医師の裁量権が盾になり、ほとんど責任を問われないからだ。

湘南メディカルでは治療の奏効率73%と喧伝

「うちの治療を受けていただければ、8割の人に必ず何かいい効果があります。73%のがんを縮小させた。副作用も少ない。1クールやって、1カ月後にがんが消える人が多いですね」

医師の言葉に耳を疑った。進行がんの患者を対象にした治療としては、驚異的な数字である。テレビCMなど積極的な広告戦略で、全国100を超えるクリニックを擁するまでに成長した、湘南美容外科グループ。5年前からは、がん治療の分野に進出しているが、「危うさ」が際立っている。

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前述の発言は、グループの湘南メディカルクリニックの患者向け説明会でのものだ。

独自の治療法であるオプジーボとヤーボイという2つの免疫チェックポイント阻害剤と、免疫細胞療法の併用療法を、少なくとも1クール行った患者171人のデータだという。提供された資料にも、「73%の奏効率」とある。日本医大の勝俣範之教授(腫瘍内科)に見解を聞いた。

「オプジーボとヤーボイの併用療法として最も高い奏効率は、皮膚がんの一種・悪性黒色腫の57.6%だ(注:出典は『N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):23-34. doi: 10.1056/NEJMoa1504030. Epub 2015 May 31.』)。奏効率73%はこれを大きく上回る数値だが、論文として公表されていない。つまり専門家の検証を受けていないので、医学的な信頼性はほとんどない。その数値を患者に向けて発信するのは誇大広告に等しいのでは」

湘南メディカルは、独自の治療法が注目を集めて、累計1784人の患者を診てきたとしている。ただし、その治療内容に多くの専門家が危惧を抱いている。

独自の治療方法の3つの問題点については、2月10日発売の「週刊東洋経済」、もしくは「週刊刊東洋経済プラス」で詳報しています。
岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。

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