グーグル支配の今は、「ネットの石器時代」 グーグルに局地戦で挑む、日本発ベンチャー企業
では、理想の検索エンジンとは?
――武井さんが考える理想の検索エンジンとは。
「プッシュ型のパーソナライズドサーチ」です。過去の行動履歴から理解したその人の趣味趣向やロケーション情報などを踏まえ、その人がそのときに求める、その人ならではの情報を「プッシュ型」で提供するエンジン。
能動的に検索をするという今のやり方はプル型です。これまでにまったく経験したことのないまったく新しいことを発見するときはプル型でもいいです。しかし、より日常的な事柄については、過去のフリークエンシー情報(接触頻度)などから、検索しなくてもプッシュ型で情報が提供されるべきです。
その精度を上げていくのに必要なのは「ライフログ」。その人の血糖値、何を食べているか、何を飲んでいるか、前回はいつトイレに行って、次はいつ頃行きたくなるのかなど、生活の記録を取る必要があります。
ウエアラブルコンピューティングが革命的だと言われているのは、コンピュータを持ち歩き、いつでも情報を引き出せるようになることだと言われていますが、私は違うと思っています。むしろ、人から情報を取り込むことに意味がある。今は時計やメガネなど体に装着されることが想定されていますが、将来的には体に埋め込むことになるでしょうね。
ウエアラブルコンピューティングの開発について、大切なのは「ヒューマンビーイングの邪魔をしない」こと。デートで出かけて、太陽の日差しを浴びているときに、しゃしゃり出ず情報を提供する感覚。また、グーグルグラスに搭載される音声入力検索は、技術や体験としては面白いので否定しませんが、ヒューマンビーイングを壊すと思っています。だって、歩きながらぶつぶつ独りでしゃべっている姿って、本来あるべき人の姿ではないですから。
ですから、CESでライフログツールを発表したソニーなんかは、実はこれからいい感じだと思いますよ。グーグルを違う方向から攻撃できる企業の最有力候補でしょうね。ヘルスケアの分野では、スポーツブランドもいい感じかもしれないですね。ガーミン社は、低電力かつ防水で、心拍数や位置情報などを全部取れるガジェットを出している。血糖値なんかも取れるようになったらすごいですね。
将来的にこうした世界が実現したら、学校で暗記できること、物覚えがいいことそのものは大した意味も持たなくなります。プッシュ型の検索エンジンが脳の処理スピードに追いつくからです。たとえば、ある物体をバイオコンタクトレンズをつけた目で見た瞬間に、その物体に関する情報が目の網膜に照射されて見えるようになる。すると、何かを記憶しておく必要がなくなります。そうすると、人間はもっと意外なこと、まったく新しいことを考えるクリエーティビティあふれる活動に集中できるようになる。そういう人が「あの人すごいね、面白いね」と価値評価される世界になっていくでしょう。というか、なるべきです。
――そのときにマーズフラッグはどこにいますか。
マーズフラッグはこれまで企業のオウンドメディアを支援する検索エンジンを作ってきました。ですから、顧客企業の情報がプッシュ型で提供されるためのサービスを提供しているでしょう。そのサービスがエンドユーザーに使われている可能性もあります。
そのときのグーグルの立ち位置は微妙ですね。「今日あなたが食べたいと思っているカレーには、ジャガイモが足りません。買っておきましたよ」という、パーソナライズでプッシュ型の検索の世界に、グーグルは登場しないかもしれません。むしろ、これまでハードウエアを作ったり、ハードとソフトを融合させるのに苦労してきたソニーなどの企業に勝機があると思います。もしかしたら、それらのデバイスにアンドロイドOSが使われているかもしれませんが、その程度です。5年後ぐらいでしょうか。
武井社長の思いが詰まった著書が発売されている。創業期からこれまでの変遷、経営者、クリエーターとしての哲学に触れたい方は、手に取ってみてはいかがだろうか。
『世界を変えるITクリエイターの力』武井信也著
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