台湾海峡と香港をめぐる「米中関係」と日本外交 中国からの圧力とアメリカの支援の「板挟み」
増大する中国からの圧力に悲鳴を上げている香港と台湾に対して、おおっぴらに支援を表明し、実際に行動に移しているのがアメリカである。
そもそもアメリカには1997年7月1日の返還とともに発効した「香港政策法」があり、関税やビザ発給などで香港が中国大陸地域とは異なる特別な地域であることを定めている。したがって、中国が香港の1国2制度をやめたら、アメリカは香港に対して付与している特別な地位を取り消すことが可能である。ただし、この地位を取り消せば、中国大陸のみならず、香港やアメリカの利益も損なわれると考えられている。
昨年11月には、「香港人権・民主主義法」が成立した。これは、香港の人権・民主主義を守るために、それを傷つけた個人への制裁(渡米制限、在米資産凍結など)を可能にした強力な法である。「香港政策法」が「抜けない宝刀」になっている一方、「香港人権・民主主義法」は個人をターゲットにしているため執行が容易であり、抑止効果が強い。香港は開放的な英語圏社会であり、渡米制限や在米資産の凍結は、政権を担うエリート個人にとって非常に痛い制裁だからである。
台湾は、中国政府の統治下にないため、香港よりもはるかに独立性が高い。アメリカは1979年に「台湾関係法」を制定して、台湾を守る軍事力の維持、台湾への武器輸出、武力を使ってでも台湾を守る可能性の示唆、台湾の国際空間確保、台湾の原発運営を支持などの措置を保障している。アメリカは中台の軍事バランスが中国に有利に傾かないよう注意を払ってきた。
アメリカの対台湾支援姿勢はさらに拡充
アメリカは、民主化が進むにつれ、そして中国の軍事力が増強されるにつれ、台湾への支援を強めてきた。
しかも、トランプ政権期になってから、アメリカの対台湾支援姿勢はさらに拡充した。連邦議会で一昨年には「台湾旅行法」が成立した。これは米台両政府の高官が相互に相手を訪問することを促す法律である。年末には「2018年アジア再保証イニシアティブ法」が成立し、米台間の軍事協力の促進が定められた。これらの法律により立法府が行政府の行動を促し、行政府の政策上のフリーハンドが増すことになる。
トランプ政権自身は、昨年7月にM1A2戦車を、8月には最新の戦闘機F-16Vを66機売却することを決定した。アメリカから台湾への戦闘機売却は実に27年ぶりである。トランプ政権の対台湾武器売却は、金額にしてすでに120億ドルを超えていて、歴代政権でもトップクラスである。
さらに6月には、アメリカ在台協会(AIT)台北事務所の新しいビルの落成式が行われ、アメリカ側賓客としてマリー・ロイス教育および文化事務担当国務次官補代理が式典に出席し、蔡英文総統と会見した。ジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官は、昨年5月にワシントンで台湾の国家安全会議の李大維秘書長と面会している。このレベルの交流は1979年の断交以来初めてである。
アメリカの対台湾支援姿勢は明白であるが、果たして、米中対立と香港および台湾が、どれほどリンクしているのか。中国では、香港問題と台湾問題の「悪化」の背後にはアメリカがいるという陰謀論が主流である。アメリカなどの市民社会と香港および台湾の市民社会の間で、共通の価値観の下に同情や連帯感が強まっていることは間違いない。
しかしながら現時点で、米中貿易摩擦とアメリカ政府の対香港・台湾政策の間に、直接の関係は見当たらない。アメリカによる上記の政策は、中国が1国2制度を変えようとしたことに対する反応と、台湾の安全を守ろうとする一貫した政策の一部であるにすぎない。