日本の「樽生ビール」時代遅れになりかねない訳 世界のビール会社は次々と樽を変えている

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各社から今年秋の酒税改定に合わせて、主力ラガービールのテコ入れが発表されているものの、独自規格のハードウェア投入やワンウェイケグ採用の話題は出てきていません。システムを開発するのには時間だけでなく多額の費用がかかるうえ、導入後のフォローにもコストが発生します。長期の計画が必要です。まずそこがネックなのでしょう。

昨今ビール業界では買収、再編が進んでおり、日本の大手も海外に数多くのブランドを持っています。買収した傘下のブランドですでにワンウェイケグを導入している事例も確認していますが、日本向けの輸出品にはまだステンレス製樽を使用しています。

ハイネケンが出した新システムの可能性

なぜ日本向けにはワンウェイケグを使わないのか。そのネックになっているのが、リサイクルに関する国民の意識だと思います。リサイクル可能な素材でできているワンウェイケグですが、「使い捨て」であるという部分だけが一人歩きしてしまうと、メーカーが積極的にゴミを増やし環境に負荷を与えているという印象を与えてしまいます。

昨今世界中でSDGsが叫ばれ、持続可能な社会を目指して各企業がさまざまな取り組みを行っていますが、ワンウェイケグの導入が時代に逆行していないことを周知徹底していかなければなりません。現段階ではまだその下準備ができていないのでしょう。

もう1つは、事故の問題ではないか、と思われます。生ビールは樽をサーバーにつないで抽出しますが、その時高圧ガスをかけます。ステンレス製の場合は不要ですが、ワンウェイケグは使用後、その内部のガスを抜いて処分をしなくてはならず、やり方を間違えると大きな事故が起こります。

クラフトビール専門店のスタッフはすでに輸入ブランドを扱っていて取り扱いには慣れていますが、大手は多数の一般飲食店を相手にしているので、知識や経験がないまま導入して事故が起こってしまったら取り返しがつきません。取り扱いについて啓蒙し、安心してもらわないといけないわけです。ここに相当な時間とコストがかかるので、今のところは導入せずに、既存の仕組みを使っているのではないかと考えています。

ただし、今後の輸入ビールの動向によっては業界が変わる可能性もあります。日本国内の業務用は依然、国産大手が強いとはいえ、ハイネケンが開発したワンウェイケグシステムのブレードはその牙城を崩すかもしれません。

同システムはコンパクトながら8リットルのケグを格納し、そのまま直接保冷しておくことができます。暴発しないように安全装置も完備しており、ガスボンベ不要でコンセントさえあえばどこにでも簡単に設置できるのでアルコール業態だけでなく理容店やギャラリー、オフィスなどこれまで樽生ビールとは縁がなかった場所でも使えるのです。

家庭用も販売していて、実はすでにアマゾンで購入可能です。決して購入しやすい価格ではないかもしれませんが、ラインナップの拡充とともに値下げをして家庭用市場を本気で取りにくるかもしれません。「自宅で樽生」はニッチですが、完全にブルーオーシャンなので今後の動きに注目です。

ワンウェイケグ導入に伴うこれらの動きについて日本ではあまり大きな話題にはなっていないようですが、世界の大手が動き始めたことで本格的にワンウェイケグ時代が到来するのは時間の問題です。今後、日本の国内消費が先細りすることが見込まれる中、日本のビール会社は規模の大小問わず、海外輸出拡大は生き残りのためにも必須で、一刻も早くこの流れに対応する必要があるのではないでしょうか。

沖 俊彦 CRAFT DRINKS代表

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おきとしひこ / Toshhiko Oki

1980年大阪府生まれ。酒販の傍らCRAFT DRINKSにてクラフトビールを中心に最新トレンドや海外事例などを通算650本以上執筆。世界初の特殊構造ワンウェイ容器「キーケグ」を日本に紹介し、販売だけでなく導入支援やマーケティングサポートも行う。2017年、ケグ内二次発酵ドラフトシードルを開発し、2018年には独自にウイスキー樽熟成ビールをプロデュース。また、日本初のキーケグ詰め加炭酸清酒“Draft Sake”(ドラフトサケ)も開発。ビール品評会審査員、セミナー講師も務め、昨年は大学院にて特別講義も。

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