「新型肺炎」の深刻な感染拡大がもたらす悪夢 感染予防に努めても世界的影響は計り知れない

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取材で訪れた病院では、院内に入れず、出入り口脇の外のストレッチャーに放置された患者も多かった。私の目の前には、意識を失った老人もいた。あとでその老人は亡くなったと知った。今回の新型肺炎でも武漢の病院には患者が殺到し医療体制が追いついていないことがわかっている。

2003年当時はSARS感染者に対して医療機関が追いつかず出入り口脇に放置された患者もいた(筆者撮影)

仮に、こういった事態が東京で起こった場合、医療施設の収容規模は足りているのだろうか。

それと、当時といまとでは、全く違うことがひとつ。それがスマートフォンの普及だ。

いまや電車に乗れば、ほとんどのヒトがスマホを取り出す時代。トイレにスマホを持ち込んで大腸菌が付着してしまうように、やたらにスマホを取り出して、あちこちに置いてしまえば、コロナウイルスが付着する可能性も高くなるはずだ。中国での爆発的な感染も、スマホの普及が影響しているかもしれない。

いくら手洗いを励行しても、その手でスマホをいじってしまっては意味がない。手洗いといっしょにスマホの消毒も必要ではないだろうか。

SARSの場合は、ホテルをはじめ、官公庁などの主要施設に入る前には、必ず体温をチェックされた。それが感染を確認するのに有益だった。

今回の新型の場合は武漢から帰国した日本人2人がそうであるように、発熱などの症状が出ていないにもかかわらず、ウイルスの感染が認められるケースが出てきた。咳やくしゃみという目で確認できる症状があれば、感染予防に備えることができた。

ところが、症状がない、あるいは潜伏期間であるにも感染が認められるようになると、体温チェックも功を奏さないことになる。そうすると、どうやって公共施設の「水際対策」を実施するのか。

訪日観光客が多く訪れる東京や大阪をはじめ、日本の大都市を中心にアウトブレイクがはじまった時には、SARS以上の混乱は避けられそうにない。

正しい感染予防のための冷静な対処がまず重要

2002年11月に中国・広東省で発生したSARSは危険性の指標となる致死率が約10%で、終息宣言が出されたのは2003年7月だった。

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今回の新型コロナウイルスは2019年12月に発生が報告された。1月31日時点の発表資料から計算すると致死率はSARSより低い約2%とはいえ、終息の見通しは立っておらず、中国当局が全容を把握できているとは言い切れない。

現時点での情報はまだ不足しているといえるが、私たちができることは、正しいコロナウイルスの基礎知識を持つこと、風邪やインフルエンザ対策と同様にマスク、手洗い、消毒は無論のこと、基本に戻るならなにをすればよいのか、各自が冷静に対処することである。それが最も大切な感染予防につながることは、まず間違いない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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