JR赤字路線、「存廃論議」は今こそ始めるべきだ 災害で運休してから議論をしても遅すぎる

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JRの極端に利用の少ない路線について、長らく、JR各社も国交省も歴代政権も関わらないようにしてきた。パンドラの箱を開けたくなかったのだろう。麻生太郎財務大臣は2017年の参院予算委員会で「黒字のJR東日本と北海道と合併するとか、JR四国と西日本とを合併させるとか」と私見を披露したが、JR東日本やJR西日本の株主は納得するだろうか。

JR北海道は、輸送密度200人未満の路線はバス転換に向けて関係自治体と相談したいと表明。輸送密度145人の留萌線も対象となるが、地元との協議は始まっていない(筆者撮影)

では、どうやってローカル線問題を解決していくのか。

JR線と私鉄線、バス路線、航空路線も含めた総合的な交通体系をどのように確立し、どうやって持続的な支援スキームを作り出すのか。交通機関を再構築するための現実的な枠組みがあってこそ、それぞれの地域で議論が進む。

個人的に興味深いのは2017年に施行された国境離島新法だ。離島の振興策として船や飛行機の割引料金に交付金が充てられるようになり、実質運賃は大幅に下がった。その考え方は、人口密度の低い地域における公共交通機関の維持に応用できるかもしれない。

被災してからでは遅い

鉄道事業者に破綻処理を任せるのも酷な話だ。JR北海道は収支計画で2020~2023年度に総額240億円のバス転換費用・橋梁等撤去費を計上し、経営再建の重しになっている。

例えば1980年代の国鉄の転換交付金に類似した制度を検討できないだろうか。当時、廃止の候補線を抱える自治体にバス転換や第3セクター鉄道への移管を促すべく、1km当たり3000万円の交付金を出して、車両の購入や運営基金などに充当させた。同じ枠組みで、やる気のある地域に鉄道事業の未来を考えてもらうのも1つの手だと思う。

国交省は長年「鉄道事業者への赤字補填はしない」との方針を貫いてきた。公共交通機関を維持するための財源を持ってないのも理解する。だが、地方鉄道の問題は北海道やJR線に限った話ではないし、東北地方のように被災してから話し合っているのは悲しすぎる。政治の世界でも全国的な課題として議論が進むことを願うばかりだ。

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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