JR赤字路線、「存廃論議」は今こそ始めるべきだ 災害で運休してから議論をしても遅すぎる

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ならば、運営コストの安いバス輸送でいいのではないか。

ただ、自治体や議員、首長はそう思わない。自分たちの世代で鉄道を失うことには、いろんな意味で抵抗感があるのだろう。「鉄道はわが町のシンボルだ」「観光客誘致のために必要だ」と訴え、「JRの経営努力が足りない」と批判する。今まで放置してきた地元にも大きな問題はあるが、なぜか知らないふりをする。

象徴的なのはJR北海道である。経営危機が顕在化して8年が経ち、鉄道事業で年間559億円(2018年度)の営業損失を出している。国は2011年度から継続して年間200億円の財政支援をし、2018年に「事業範囲の見直し」を含んだ経営改善命令を出した。

国交省は、石北線や宗谷線など単独維持困難8線区に補助を出す条件として「地方自治体等からも同水準の支援が行われること」を要請している。地元負担は「年間40億円規模」との報道もあった。

迷走するJR北海道の再建論議

だが、北海道や市町村はJR批判を繰り返す。元をたどれば国鉄改革のスキームに問題があったのだから「国が全面支援すべき」と主張する。

JR北海道宗谷線名寄~稚内間の輸送密度は335人/日で、1日に特急が3本、普通も3本と本数も少ない。ただ、バス輸送で代替できるかは不安視されている(筆者撮影)

ただ、北海道のみ負担ゼロでは、道外の46都府県の有権者が納得しない。全国に赤字鉄道はたくさんあり、各自治体は路線維持のため税金を投入している。例えば、秋田県は、2018年度、旧国鉄線から引き継いだ第3セクター鉄道の秋田内陸縦貫鉄道に3億円、由利高原鉄道に1億4千万円の補助を出し、営業損失の穴埋めをしている。青森県、岩手県、福島県など他府県も、地方鉄道を維持するための負担を続けている。

道庁はようやく2019年度から鉄道利用促進環境整備交付金で補助を始めたが、支援額は年2億円。JR北海道が導入する新観光列車やWi-Fi、多言語案内表示など利用促進策に限定される。老朽化した線路や車両への設備投資への支援がゼロでは未来はない。ゆえに再建策はいつまでもまとまらず、議論が迷走している。

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