茨城ではスタバもかなわない名店の圧倒的魅力 高級豆×独自の仕掛けで大手と違う土俵に立つ

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さまざまな取り組みをする太郎氏の活動は、父の誉志男氏譲り。かつては徳川慶喜家にちなんだ「徳川将軍珈琲」を開発し、看板商品に育て上げた。

この商品は、江戸幕府15代将軍・徳川慶喜直系のひ孫で、コーヒー通の徳川慶朝氏(2017年死去)が太郎氏と一緒に豆を選び、サザで焙煎技術を学んで共同開発した。江戸幕末に飲まれたであろうフランス風珈琲を現代風に再現し、インドネシア・スマトラ島の最高級「マンデリン」を中心にブレンドしてある。焙煎は深煎り(フレンチロースト)だ。200グラム・1500円(税込み)のコーヒー豆が驚くほど売れる(数字は非公表)。

大切なのは、奇想天外に見える一連の取り組みも「飲食」を追求していること。カフェ事業の軸足を踏まえ、“飛び地”ではないのだ。その思いを太郎氏はこう話す。

「次の時代に生き残るには、おいしさだけではダメ。コーヒーの味は好みもあり、コンビニコーヒーで十分という人もいます。高級豆も価格のたたき合いになりかねません。おいしさを追求し、楽しめることを考えながら自社は変身する。そして業界全体を盛り上げたい」

「カステラショートケーキ」と「コーヒー」(筆者撮影)

もう1つの同社の持ち味は、徹底的な試飲だ。昭和時代から折に触れて、高級コーヒーを惜しみなく振る舞う。「飲んでみないとわからない」からだが、地元ではサザコーヒーならぬタダコーヒーと呼ばれる。無料で飲んで、味が気に入った人は顧客になっていく。

「茨城」と「東京」で、何を強みとするか

表面上は順調に見えるサザコーヒーだが、筆者は「正念場」を迎えたと思う。

近年は「茨城で有名な老舗店」が、「東京でも注目される店」となった。だが、スターバックスの100分の1の規模にすぎない。個人店のぬくもり感を訴求し続けるのが望ましい。

創業者夫婦である誉志男氏が会長、妻の美知子氏が社長を務めるサザコーヒーは、昭和の「喫茶店マスターとママ」の出世頭。それでも本店でお客が殺到すると、夫婦そろってカウンターに入り、皿洗いに精を出す。常連客ほど、その行動をよく見ている。

東京を中心に訴求する高級豆も正念場だ。長年の人脈や信用で入手してきた希少価値の「ゲイシャ」は、ますます競争が激化する。コーヒーは嗜好品なので、浅煎りで酸味が強いゲイシャの味を好まない人もいる。例えば昨年12月、かつて人気を呼んだシングルオリジン(単一銘柄)の「NOZY珈琲」(東京都)が自己破産した。消費者は時に移り気だ。

それでもサザコーヒーの強みは、飲食の味と品質、そしてコーヒー愛を語る従業員の多いことだ。実は同社の人気バリスタにも引き抜きの声がかかるが、チームの結束は固い。バリスタ自ら生産地に出張して農園主や栽培者と向き合う「川上×川下」一体化も特徴だ。

かつてドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏は、スターバックスのアメリカ本社幹部から「アジアの喫茶店の革命者」と評されたという。鳥羽氏がセルフカフェの「ドトールコーヒーショップ」を浸透させた功績は評価するが、日本の喫茶文化は、特定の人物ではなく、それぞれの時代の各店主やスタッフの創意工夫で発展してきた――と筆者は考えている。

その意味でも、茨城と東京で奮闘する個人店の活動に引き続き注視していきたい。

高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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