「攻めたい社長」と「守りたい経理」の残念な関係 経理担当とこんなやり取りしていませんか?

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ある飲食業の会社が大手企業に買収されることになり、改めて経理の資料を精査することになりました。この会社の経理担当は10年以上、経理全般を仕切ってきたベテランで、会社の数字を知り尽くしている50代の男性でした。社長も彼に全幅の信頼を置き、いわば会社のナンバー2的存在だったので、経理についてはほとんどノーチェックだったそうです。

ところが、買収にあたり弊社の会計士が入り、確認作業をしていくうちに、不明な残高が次々に出てきました。その経理担当者に確認したところ、どうもはっきりした答えが返ってきません。例えば、「このパソコンはどこにありますか?」と記載された情報を尋ねてみても、「あれ、買ったかな、どうだったかな」となんだか怪しいのです。

そうしたやりとりを経て、「もう隠しきれない」と観念したのでしょう。やがて、彼が数年間にわたって架空の経費計上を繰り返してきたことが判明しました。その額は、なんと3000万円。その会社では中規模の機器購入がつねに必要だったこともあり、大きなお金を動かしても、とくには怪しまれなかったといいます。

その経理担当者は、一見、不正など絶対に行わないと思えるような、まじめな人物で、長年にわたって彼を信頼してきた社長も、事の次第を知って絶句するばかりでした。

事件が発覚したタイミングで税務署の調査

しかし、お金を扱う部署である以上、どんなにまじめな人であっても、魔が差すように会社のお金に手をつけてしまうという可能性はゼロではありません。会社のお金を一手に握っていた彼は「これくらいなら、わからないだろう」と、いつしか不正に手を染める誘惑に屈していたのです。

経理の数字を操作して得たお金は、プライベートな食事代や遊興費に使われていたといいます。ブラックボックス化していた経理を握っていたのは彼1人でしたから、もしも買収話が持ち上がらなかったら、バレないまま、ずっと着服を続けていたかもしれません。

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結局、その経理担当者は懲戒解雇されました。着服された会社のお金は、すでにほとんど使われてしまっていました。社長自ら回収を続けているものの、完了するまであと何年かかるかわからない状態です。

しかし、それだけでは済みませんでした。事件が発覚したタイミングで税務署の調査が入り、徹底的に帳簿を調べられました。架空の経費はもちろん否認されます。その分は修正となり、大幅に利益が増額します。「追徴課税を払いなさい」「架空経費は本人から回収しなさい」と言われ、そのうえ、会社の信用力が低下しました。

最終的にはなんと買収の話も頓挫してしまいました。すべて、経理を1人に任せきりにし、ブラックボックス化していたことで起こった本当の話です。

経理担当者を信頼するなと言っているわけではありませんが、誰でも魔が差す可能性はあります。1人にすべてを任せ、経理をブラックボックス化させてしまうことは、結果的には会社のためにも本人のためにもならないのです。

会社として健全なチェックの仕組みとオープンな環境を備えることは社長としての大切な仕事です。社長として、会計の知識はなくとも経理に丸投げではなく、経理の動きを把握して、社長と経理がダッグを組むことで会社としての機動力や体力、可能性は大幅に変わると考えています。

町田 孝治 公認会計士、税理士

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まちだ たかはる / Takaharu Machida

1975年埼玉県生まれ。早稲田大学理工学部に進学し、業務効率化、プログラミング、統計学を学ぶ。父の税理士事務所は兄が継ぐことが決まっていたが、勉強してみると面白くて夢中になり、大学3年から会計士の勉強を始める。大学卒業後、公認会計士試験二次試験に合格。トーマツ入社。6年勤務した後「もっとお客様の立場に立って仕事がしたい。目の前の人を幸せにするために自分の力を100%出し切りたい」と退社。2006年、31歳で「町田公認会計士・税理士事務所」を開業。著書に『会社のお金を増やす 攻める経理』がある。ドラマ「これは経費で落ちません!」(NHK)ではM&A考証を担当。税理士法人 町田パートナーズ

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