京都・奈良対立のリニア「大阪まで延びない」説 ルートを巡る対立で名古屋以西へ延伸できない?

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「18年後なんて、それはないわ」という大阪人の嘆き節は、経済的な側面から見るとうなずける部分がある。「18年間のアドバンテージ」。今、名古屋の地元ではこのような言葉がある。リニアの先行開業で東京との交通利便性が圧倒的に増すことにより、「名古屋が大阪よりも優位に立つ」とみられているのだ。

確かに東京─名古屋間のリニアが開通すれば、移動時間がわずか40分のため、人口3562万人の首都圏と1134万人の名古屋があたかも一つの商圏に統合された形になる。首都圏と名古屋の企業にとっては、またとないビジネスチャンスであろう。巨大商圏を得たことによる販売増が期待できるだけでなく、大量仕入れ・大量販売に伴うコストダウンも可能になる。一方、巨大商圏からの疎外感が否めない大阪は、地盤沈下が危惧される。

大阪は交通ネットワーク形成について、リニアだけでなく、北陸新幹線をめぐっても心配の種を抱える。北陸新幹線は15年春に長野─金沢間が開業するが、敦賀─大阪間ルートについては、関係自治体の意見が食い違っている。「若狭(小浜)ルート」「湖西ルート」「米原ルート」など複数案が乱立しているのが現状だ。

迫るタイムリミット 関西の悪いクセ

新名神高速道路(23年全線開業)と、北陸新幹線の敦賀─大阪間、そしてリニアの名古屋─大阪間、この三つがそろうことで関西の物流インフラが格段に強化される、と大阪は考えている。何としても、北陸新幹線の大阪までの延伸計画が遅れることを回避し、そしてリニアの同時・早期開業を実現したいところだろう。

ただ、リニアの27年全線開業の実現性は低い、と言わざるをえない。9兆0300億円ともいわれる巨額な整備費用はJR東海が全額負担する。同社が2段階の建設計画を立てたのは、ピーク時でも借金を5兆円以下(現状2.6兆円)に抑えながら建設するため。国費でも投入しないことには、同時・早期開業を実施するための資金負担に民間企業1社ではとても耐えきれない。

同時・早期開業どころか、大阪までの延伸計画そのものを疑問視する声が出る可能性もある。そもそも、リニアは東海道新幹線の「代替路線」として位置づけられている。地震などの災害が発生した際や、老朽化したトンネル、線路など東海道新幹線の大規模な修繕に備えるためだ。JR東海が全額自己負担での整備を決断した理由は、代替路線を早く確保したかったからにほかならない。

一方、名古屋から大阪については、すでに近鉄線や関西本線(JR東海と西日本が管轄)などがあり、代替路線としてリニア設置を急ぐ必然性が薄い。前出の市川院長は「巨額な投資の効果を考慮した場合、名古屋と大阪をつなぐ必要があるのかという議論が、いずれ出てくるのではないか」と見る。

大阪に残された時間はない。名古屋から西の工事期間を東京─名古屋間よりも短い10年ぐらいと想定しても、同時開業を実現するためには、今14年度中にも環境影響調査を開始する必要がある。

京都と奈良も「同時開業が望ましい」という意見では一致するが、両県がルート問題でバトルを繰り広げていることからわかるように、関西は決して一枚岩ではない。同時・早期開業に向けて早急に足並みをそろえ、資金面などのスキームを提示しなければ、手遅れになりかねない。

関西、伊丹、そして神戸。自治体の思惑が入り乱れた結果、半径20㌔圏内に三つもの空港ができてしまった関西圏。リニア開業が遅れると地域低迷が避けられないだけに、今回こそ「オール関西」で一体化した取り組みが望まれる。

(週刊東洋経済・臨時増刊『鉄道完全解明2014』〈2014年2月14日発売〉の一部を掲載しました。)

鉄道完全解明2014
中央リニア新幹線着工や鉄道の海外進出など、経済・ビジネスの観点からも世間の関心を集める話題が満載です。五輪で変わる首都交通網やJR・私鉄全路線の収支に加え、東洋経済独自の“鉄道四季報”も掲載しています。


 

 

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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