ゴーンが国内最後のインタビューで語ったこと 逮捕容疑、業績悪化の責任にどう答えたか

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――ゴーン氏と言えば、「コミットメント経営」で有名です。例えば、2011年度~2016年度までの中期経営計画「日産パワー88」で、グローバルシェア8%、営業利益率8%という目標は未達に終わりましたが、責任をとろうとしないゴーン氏自身への批判があります。

この点はストレートに聞いてみた。ゴーン氏の答えは「グローバルの市場シェアが7%に終わった、営業利益率も7%に落ち着いたことを失敗だととらえるのは完全に間違っている。計画はすべての項目が必達のようには作られない。全部計画通りに行ったら、もともとの計画が易しすぎたということ。背伸びをすることは人々をプッシュする。だから、目標をすべて達成できるというのは甘い。難しいものは未達になる。正しい方向に向かって進んでいればよい」というものだった。

目標と結果の関係はそのとおりだと思うが、問題は未達の結果をどう評価するかという点が、すべてゴーン氏の主観で決められていたのではないかという点だ。北米事業の不振の原因としての値引きの影響を短期的にとらえるのか、長期的にとらえるのかによって評価は異なってくる。そのような結果の評価の恣意性が、日産社内でゴーン氏にものが言えない「ゴーン独裁」と言われる企業風土を作っていったのではないか。

検察がクーデターに加担したことは明らか

――現在の日産の業績悪化の原因についてどう考えていますか。

業績悪化の責任は、第一義的には、悪化した時点のCEOである西川氏にあると言えるだろうが、根本的には、その前任であるゴーン氏がCEOの時代に北米で過剰値引きをしたことが原因となったことは否定できないと思う。ゴーン氏が今も日産に残っていたとしても、日産の業績の悪化は避けられなかっただろう。

ただ、私がインタビューを通じて感じたのは、日産がそういう逆境になった時に、ゴーン氏がいれば、FCAとのアライアンスなどの大胆な戦略で危機を突破できた可能性もあったのではないかということだ。ゴーン氏は、そう思わせる企業人としてのパワーを感じさせる人物だったというのが、インタビューを通じて私が受けた印象だ。

――ゴーン氏の話を聞いたうえで、今回の日産自動車とゴーン氏をめぐる事件について、どのように捉えていますか。

ゴーン氏は羽田空港到着後、弁解も聞かず突然逮捕された。その容疑事実とされた「未払いの役員報酬」の開示に関する金融商品取引法違反が、刑事処罰が当然と言えるような問題ではないことは、私が一貫して言ってきたことだ。それは、インタビューを踏まえてもまったく変わらない。事件の内容から当然だと言えるものではなく、ゴーン会長追放が目的だったからこそ、検察が無理筋の事件で逮捕してクーデターに加担したことは明らかだ。

問題は、日産自動車という日本でも有数の企業にとって、そのクーデターがどういう意味があったのか、どういう結果をもたらすのかだ。直接的な背景はルノーとの統合問題だったようだが、ゴーン氏を追放したところで、今後のルノーとの関係について問題が解決するわけではない。実際、現在も不安定な状況が続いている。

問題はより根深いところにある。徹底した成果主義をとるゴーン氏のコミットメント経営と、日本人幹部の旧来の企業観との間にはかなりのギャップがあったことが、ゴーン氏の言葉の端々からうかがえる。ゴーン氏は、それを日産が1999年以前の悪い状態に戻ろうとしていると見ていて、数年内に日産の経営は破綻すると予測している。

一方、日本社会の見方は「ゴーンは、日産をV字回復させて救ったところまでは良かったが、その後の長期政権で独裁となり、経営を私物化し、その結果、日産自動車が危機的な状況となった」というもの。どちらが正しいのか。日産が今後どうなっていくかを見て判断するしかないだろう。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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