ゴーンが国内最後のインタビューで語ったこと 逮捕容疑、業績悪化の責任にどう答えたか

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――日産の業績は急速に悪化しています。大きな原因としてゴーン時代の無理な拡大主義があったと日産は主張しています。その点についてゴーン氏はどのように説明していますか。

経営悪化は自分の責任ではなく、西川氏の経営手腕に問題があったからというのがゴーン氏の主張だ。

ゴーン氏は「経営者は、会社の業績によって評価される」という徹底した成果主義の信奉者だ。その評価指標として、①売上高成長率、②営業利益、③出資先の持ち分を含めた全体の利益、④キャッシュフロー、⑤資産の増減率、⑥市場価値、⑦ブランド力の7つを挙げていた。

「1999年以前はすべての指標が悪かったが、ゴーン氏がCEOだった1999年から2016年の間で、2008年を除けば、これらの指標はすべて上向きだった。ところが、2017年から2019年にかけて、これらの数字がどんどん悪くなった」ということを強調していた(編集部注:ゴーン氏のCEO在任期間は2001年6月から2017年3月末まで。うち2016年11月から2017年3月末までは共同CEO)。

値引きで利益が上げられれば正しいのか

――北米事業の不振についてはどう説明していましたか。

「北米事業の不振の原因は過剰値引きだと日産が言っているが、値引きはその時々に行うことで、その結果利益が出たかどうかに尽きる」というのがゴーン氏の考え方だった。

「(ゴーン氏が)CEOだった2016年は大きな値引きがあったとしても十分に利益が取れていた。(2016年11月に)西川氏がCEOになってから値引きをやめる方針を立てて、それを打ち出したとたんに北米事業の利益が悪くなり、利益が崩壊した。2016年の値引きが2019年の利益の減少の原因になるわけではない」「値引きは道具。やる、やらないとか、増額・減額はマーケティングとセールスのツールだ。目標はトータルの利益で、会社全体の利益を確保すること」ということだった。

――西川氏やその他の経営陣にも業績悪化の責任はあるにしても、ゴーン氏に責任がないというのはいかがなものなのでしょうか。

その点には私も疑問があったので、値引きの良し悪しについてかなり突っ込んで聞いた。ゴーン氏の説明は「エルメスはディスカウントしない。彼らは高ければ高いほど利益になる。それは良いことか、それとも悪いことか。それは彼らの利益を見れば一目瞭然で、利益が上がっていれば正しい。値引きの有無ではなくて利益が生まれているかどうか、値引きに会社が耐えられるかが重要だ」ということだった。

彼の言うことは大変ロジカルで合理的だった。ただ、日産の販売戦略において値引きがどのような影響を与えたかという点について、私も若干疑問を持ったことは確かだ。

ゴーン氏は、自動車という商品のブランディングの重要性について、「同じ車でも、ベンツと日産ならベンツのような価格は日産にはとれない。中国メーカーの車も日産と同じ価格はつけられない」と言っていた。しかし、問題は、北米における日産車がベンツのようなブランドに近いか、中国車に近いのかという点だ。

過剰値引きのために、日産車が北米で中国車のようなイメージで見られ、ブランドを損なったとすれば、その影響は長期的に継続した可能性も否定できないように思う。値引きは、手段として利益を上げる結果が出せるかどうかが問題だというゴーン氏の見解は、理屈のうえではその通りだが、自動車販売の現実から考えてすべて正しいと言えるのかは疑問だ。

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