あなたは「芝浜だけに」の意味がわかりますか 吉田茂、渋沢栄一が愛した教養としての落語
「こんな大金拾っちまった。もう働かなくていいってことだ! 酒だ、うなぎだ、天ぷらだ! 長屋の連中にもごちそうするぞ!」
翌朝、いつもと同じように女房が魚勝を叩き起こします。
「お前さん、商いに行ってくれよ」
「バカか。もう働かなくてもいいんだ。42両拾ったじゃないか」
「そんなことあるもんか。お金を拾った夢でも見たんじゃないの?」
女房は魚勝に、「昼過ぎまで寝ていて、起きたらいきなり長屋の連中呼び集めてどんちゃん騒ぎをし、また寝てしまったんじゃないか」と告げます。
「お金を拾った夢なんか見て喜ぶなんて情けない」
女房に泣きながらそう訴えられた魚勝は改心し、酒をピタッとやめて一生懸命に働くようになります。
それから3年後の大晦日
それから3年後の大晦日。魚勝は、小さいながらも若い衆を二人置くぐらいの店をもつまでになっていました。除夜の鐘を聞きながら、女房が奥から革財布を取り出してきます。魚勝がそれを開けてみると、42両もの大金がありました。
「お前さん、3年前のあの話、あれ夢じゃなかったの」。女房は、そう述懐します。
「てめえ、騙していたのか!?」
激高する魚勝に、女房は涙ながらに訴えます。3年前、財布を拾って帰ってきた魚勝が寝た後のこと。女房が大家のところに大金について相談に行ったところ、次のように助言されたのです。
「拾った金を使わせたら、亭主は罪人になる。金はお奉行所へ届けて、みんな夢の中の話にしちまえ」
そこで、女房は一世一代の大嘘をついたのでした。しかし、3年が経ち、『落とし主現れず、拾い主のもとへ』というお達しで、晴れて42両は魚勝のものとなったのです。魚勝は女房の気持ちを思いやり、改めて礼を言います。
「お前が、あんな芝居を打ってくれなかったら、今頃、俺は罪人としてこの寒空の下、ガタガタ震えていたはずだ。ありがとよ」
「ねえ、お前さん、お酒飲もうよ。もう大丈夫だよ、飲もうよ」
「そうかい、お前がいいっていうのなら」
3年ぶりに茶碗酒に口を近づける魚勝でしたが、すんでのところで思いとどまります。
「よそう。また夢になるといけねえ」
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