「オーストラリア火災」がここまで悪化した理由 気候変動を認めたくないモリソン首相

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批評家の多くは、モリソン首相が今回の火災を気候変動における転換点としてではなく、悲劇として扱っているのは、同首相によるこれまでの気候変動に対するアンチ的な言動の延長だとみている。

何カ月もの間モリソン首相は、消防作業は長年にわたって個々の州にゆだねられてきたと主張し、広範な軍事活動や国家的な非常事態宣言をするといった、より強力な連邦政府による介入を要請する声を退けてきた。同首相は1月4日に軌道修正し、軍事予備軍と新たな航空機のリースについて発表した。

カトリーナのときのブッシュを思わせる

観光業出身のモリソン首相は、ハッシュタグ「#scottyfrommarketing」で、ネット上で冷笑を買ってきた。1月1日、オレンジ色の空の下で5人の火災犠牲者が見つかった同じころ、オーストラリアのクリケットチームを歓待しているモリソン首相の写真が投稿された。

「2005年のハリケーン・カトリーナ直後のジョージ・W・ブッシュを思い起こさせる」と、オーストラリアの無党派の政策センターであるローウィー研究所のダニエル・フリットン氏は言う。「ブッシュは実態を把握しておらず、国民の関心の深さを誤解していた。そして、そのことは、同氏が残りの在任期間中ずっと携えていかなければならない磁石のようなものになった」。

つい最近、モリソン首相は、オーストラリア政府は確固たる行動をとっているとして、同国の環境政策を擁護しようとした。12月26日の記者会見では、政府は排出削減目標を予定どおり「達成し、超える」方向で進んでいると繰り返し述べた。

が、気候科学者に言わせれば、削減目標はそもそも低い。それどころか、オーストラリアの排出量は増加し続けており、政府はさらに多くの排出権を求めて戦っている。

2019年12月にスペイン・マドリードで開催された国連気候変動枠組み条約締結約国会議(COP25 )でオーストラリアは、パリ協定の目標達成に向けて、20年前の京都議定書の下での削減分を「持ち越す」ことを提案して厳しい批判にさらされた。

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