伊藤詩織さんの「勝訴」になぜ世界は騒ぐのか 日本人に感じる当事者意識の低さ

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「日本における基本的な問題は、警察がまるでお決まりのように被害者の主張を疑うことから始めることだ。立証責任は被害者に課せられてしまう。フランスでは、まずその人を信じたうえで、調査を始める」と、日本で働いた経験のあるフランス人の男性警察官は説明する。

だが、伊藤氏はあきらめる代わりに、真っ向からこの事件を取り上げるよう高輪署の男性警察官たちを説得した。そしてそれを警察官たちは徹底的にやった。捜査を終えた警察官たちが達した結論は、山口氏は逮捕されるべきというものだった。

ところが、この努力は菅義偉官房長官に近しい中村格警視庁刑事部長(当時)によって阻止されることになる。中村氏は、山口氏に逮捕令状を出さないことを決定したのだ。これは前例のない決定だ。その唯一の理由として考えられるのは、山口氏を日本の司法からかくまうことである。

その後、検察は山口氏の準強姦容疑を嫌疑不十分として起訴を取り下げる。だが伊藤氏は追求をやめず、損害賠償を求める民事訴訟を起こしたのである。あれから4年――。

日本は性犯罪に対する認識が遅れている

今回の伊藤氏の勝訴は、日本のみならず、世界中で大きく取り上げられた。これは日本における性犯罪に対する意識を変える第一歩となるという見方もある。だが、ほかの先進国と比べると、日本ではまだ性犯罪は深刻な問題と見なされていない。当事者となりやすい女性自身でさえもこの問題に関してあまり考えが及んでいない、というか当事者意識が著しく低いと感じる。

実際、何年にもわたる日本人女性とのカジュアルな会話のなかで、筆者は女性たちがこの話題を大変軽視していると感じた。伊藤氏の名前を出しても、彼女の戦いに共感を覚えない女性が数多くいることに気づいた。若い女性は夜間に年上の男と一緒にいるべきではないとか、そうした態度だから伊藤氏は自らを危険にさらしているのだ、と女性たちは指摘する。

日本の女性誌は伊藤氏の名前を出すことすらしない。今回の判決が日本で大きく報道されたのは確かだが、それはおそらく伊藤氏が海外で有名であり、もはや無視できない存在となったからだろう。

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