箱根駅伝、選手が「厚底」靴をあえて選ぶ5大理由 「ユニフォームと靴の違い」に出る選手の信念
もちろん、ほかのメーカーも手をこまねいているわけではありません。「カーボンプレート入り」の靴を開発しているメーカーは、ほかにもあります。
例えばニューバランスは、「靴職人」の三村仁司さんが作る靴とは別路線で、カーボンプレートを取り入れた靴も開発しています。これが発売1年目から結果も出しています。
箱根駅伝の選考会でもあった2019年の上尾シティハーフマラソンでは、1位と2位がニューバランスのカーボンシューズ「FUELCELL 5280」でしたし、12月に中国で行われたマラソンアジア選手権で優勝した神野大地選手が履いていたのも、来年秋にニューバランスが発売予定モデルの「FUELCELL 5280」後継モデルのプロトタイプです。
「FUELCELL 5280」のカーボンの反発は「ヴェイパー」より強烈で、「ロードスパイク」と呼ばれるモデル。高反発であるがゆえ、10マイルやハーフといった距離では圧倒的に効果を発揮するのですが、それよりも長い距離でまんべんなく好記録を出しているのは、やはり「ヴェイパー」なんです。
また、アディダスも「カーボンプレート入り」の開発に乗り出しています。「青山学院大学」の選手の何人かが、秋の全日本大学駅伝から、そのシューズを履いて走り始めていますし、真っ黒や真っ白でシューズの素性がよくわからないようマスキングされたシューズを履いて駅伝を走る主力選手の姿も確認されています。
ただし、どのメーカーもまだ「テスト期間」という印象は否めない。ひとくちに「カーボン」といっても、硬いもの、軟らかいものがあり、割れる可能性もあるからです。
ナイキは全世界的なビッグデータを駆使してテストを重ねたうえで、約2年さらに「熟成」させて、現在があります。それに比べると、ほかのメーカーはまだまだ「熟成」が足りない。「先行者利益」をもつ「ヴェイパー」が、現時点では選手を席巻しているのです。
「競技用」と「タウンシューズ」を融合させる
もう1つ「経営戦略」のうまさもあります。ナイキは、「職人による靴作り」とは一線を画して、世界中の顧客から集めた「ビッグデータ」をAIで解析し、万人にとっての理想的な走り、理想のフォームをはじき出すことで、それを可能にする厚底の「ヴェイパー」を誕生させました。
通常、靴メーカーは「競技用シューズ」と「タウンシューズ」とでラインを分けているものなのですが、ナイキの場合は開発もマーケティングも全体でやっていて、研究所のビッグデータから市販までを一気通貫で持っていけるという強みもあります。例えば、「ズームフライ」という競技用シューズに使っているクッションは、「リアクト」という普通の人がタウンシューズとして履く靴に使用しているものをそのまま使っています。
「タウンシューズ」のほうが、やはりパイとしては大きく利益が上がる。それを「競技用シューズ」のものとうまく融合させて、同時に開発に資金を注ぎ込むわけです。
ビッグデータの規模とその熟成度合い、そして資本力で、「匠の技だけでは勝てない」というところにきてしまっているのです。
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