社会経済的ステータスは「居住地」次第で変わる 人からの「影響」を断つのは愚策でしかない

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「ヒーローとは、ヒーローという存在だから生まれた結果ではなく、『状況』が生み出したもの」と彼は答えている。個人が何を成せるかは、その個人が身を置く状況によって「必然的」にもたらされるというのだ。

1982年に、車の下敷きになった息子を救おうと駆けつけた母親が重さ数トンのシボレーを持ち上げた事例が報告されている。これはまさに、「息子の危機」という状況が、母親の奥底に眠るスーパーウーマンさながらのパワーを引き出した例といえよう。

「住んでいる州」が経済状況を規定する

このデュラントの洞察は、歴史家の裏づけに乏しい臆測とはまったく異なる。「歴史を形作ってきたのは、その時々の状況である」という彼の洞察は、近年科学的にも確認されている。

ハーバード大学のエコノミストであるラジ・チェティ博士とナサニエル・ヘンドレン博士が行った「機会均等プロジェクト」という研究がある。このプロジェクトは、「アメリカで人はどれだけ自分の経済状況を改善できるのか」という可能性を地図に落とし込んだものだ。

結果は、残酷なまでに明確だった。人が社会経済的なステータスをどれだけ改善できるかは、住んでいる州、さらには住んでいる郡に大きく依存することが判明したのだ。

努力次第で経済状況を改善できる州も一部存在するが、それ以外ではその可能性はゼロに近い。事実、私が養子として引き取った子どもたちの出生地は「収入を上げられる可能性が9%」という地域で、5歳の子は10まで数字を数えられず、7歳の子は字が読めないという状況だった。

神経科学の研究によると、クリエーティブなアイデアが職場で浮かぶ確率は16%という試算が出ている。これは、職場という空間がパフォーマンスに及ぼす影響の大きさを物語る報告で、地理的環境が経済状況や労働生産性に見えない形で関与していることは明らかだ。

環境には、地理的要素だけでなく、「人間関係」も含まれる。著作家のジム・ローンの言葉「人は、一緒に過ごす時間が最も長い5人を平均した人物である」ことが正しいと証明した研究は複数存在する。それどころか、人は5人の友達がそれぞれ一緒に過ごす5人の平均でもある。つまり、もしあなたの友達の友達が太れば、あなたの体重も不健康に増えてしまう可能性が急に高まるのだ。

「悪い友達と付き合うと悪くなる」というのは、科学的にもあながち間違いではないといえる。

実際、私も研究者としてこれまで数限りない事例を耳にしてきた。そのうちの1つが、幼少期、壮絶ないじめを経験したある青年にまつわる話だ。

彼は、大人になると軍隊に入所する。厳しい訓練を乗り越えたくましく成長した彼は、軍隊のリーダーを務めるまでになり、まさしく「別人」のようになった。そんな彼が子どもの頃を過ごした街に戻った途端、故郷の人たちは彼の変化に気づかず、昔と同じように扱おうとした。

驚くべきは彼の反応で、なんと彼は、昔に戻ったかのようにそれを受け入れた。消極的で不満だらけの青年に戻ったのだ。そしてこれは、状況が変わらないかぎり永遠に続く。

これと似た現象は、さまざまな形で現れる。例えば、ある業界で長く経験を積んでいる人たちほど、新規参入者の新しい考え方に拒絶反応を起こし、「わかっていない」と結託する。これは、古参者の間で習慣やルールが無意識のうちに形成されているためであり、それに反する者はどんなに優秀でも受け入れられないのだ。

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