「つなぎが多いそばはダメ」という大きな勘違い つなぎにはいろいろな役割があった

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コストの問題に関しても、安いから使っているということばかりではないようだ。確かに一部の立ち食いそば店などでは、価格を抑えるためにつなぎを7割近く使っている場合がある。町のそば店などでは、そば粉が6割から7割というのが多いのだが、十割と比べて、原価に大きい差が出るものではないという。

「もりそばの場合、十割と7割では原価の差は数十円ですね。安いからつなぎを使っている、というわけではないんです。うちの場合も、あくまで作りたいそばがあるから、7割の田舎そばを作っているんです」

何を使ってもおいしければいいのでは

そばの価格を左右するのは原材料費よりも、人件費だ。手打ちの十割そばが高いのは職人が打っているからなのだ。最近はチェーン店でも十割そばを300円台で提供しているところがあるが、それは機械化してコストを削ったうえに、調理をマニュアル化して誰でもできるようにしているからである。

誠やの店主、福田氏(撮影:今井 康一)

そばにとって、つなぎはけっして悪いものではなく、むしろ必要なものだ。コンビニエンスストアで売られているレンジ調理麺のそばは、近年、その風味や喉越しが高く評価されている。しかし、それも一回調理したそばを、レンジで再加熱してもだれないよう、つなぎを工夫した結果である。

また、最近、若い世代を中心に人気となっているラー油の入ったつゆで食べるつけそばも、濃厚なツユに負けないよう、つなぎに加工でんぷんを使ったしっかりしたそばにしている。どちらも、よりおいしいそばを食べてもらえるよう、新しいつなぎを研究開発した結果なのである。

「もちろん十割そばはそばの完成形だと思いますし、それはそれでいいと思います。何を使おうと、結局、おいしいそばができればいいと思いますよ」

職人が手打ちした十割のそばはおいしい。しかし、町そばの機械製麺した7割のそばも、茹で置きしてもだれないよう作られた立ち食いそば店の4割そばも、でんぷんを使った歯ごたえのあるつけそばも、それぞれが違うおいしさを持っている。そば粉の割合は気にせず、おいしいそばを楽しんでもらいたいと、1人のそば好きとして強く思う。

本橋 隆司 フリー編集者・ライター

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もとはし たかし / Takashi Motohashi

出版社勤務を経て、フリーの編集者・ライターとして雑誌やWEBサイトなどで活躍中。立ち食い蕎麦好きが高じて、2013年に『立ち食いそば図鑑 東京編』、2014年に『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作して出版。蕎麦愛好者コミュニティ「東京ソバット団」の団長も務める。

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