「息子の様子が変」マトリに駆け込んだ母の苦悩 覚醒剤乱用者の症状が「最近の息子と似てる」

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息子が逮捕される可能性を提示されながら“覚悟を決めている”と明言したこの親を、私は当時、とても立派だと感じた。半年で50万円を渡したのは感心しなかったが、普通はそんな決心はできない。よほど悲惨な事態に陥らない限り、親はわが子の逮捕を最後の最後まで避けたがるし、何とか穏便に済ませようとするものだ。

状況を聞き、われわれは、Wがほぼ間違いなく覚醒剤を使用しているとにらんだ。入手経路はネットだろう。1996年当時、すでにネット上には薬物密売サイトが散見され、われわれはそのうちのいくつかを対象に捜査を始めていた。しかし、こうも早くネット密売の「客」と接触することになるとは正直、思わなかった。

私はうなだれる母親に、「息子さんは、覚醒剤をはじめとする興奮系薬物を使用している疑いがある。何とか息子さんの部屋に入って調べてほしい。どんなささいな証拠でもよいので早急に見つけてもらいたい。それ次第で、捜査が可能かどうか判断させてもらう」と伝えた。母親は「はい」と小さくうなずくのみだった。

庭からはしごをかけて息子の部屋に入った父親の覚悟

数日後、母親が夫を伴ってマトリを再訪した。大企業の役職に就くWの父親が語り始める。

「やっと息子の部屋に入ることができました。息子が外出している隙に、庭から窓にはしごをかけまして……。なんとも情けない話です。それで、ベッドの下や本棚に置かれた雑貨をあさっていると、裏ビデオと一緒にこのような物が出てきました」 

父親が提示したのは、くしゃくしゃに丸められたアルミ箔と、10cmほどの長さに切断されたストロー、そして、小型のチャックが付いたポリ袋に、簡易ライターなどであった。アルミ片には焦げ跡があり、若干だが燃えかすが付着している。これらの証拠から導き出せる答えは1つしかない。

両親は神妙な面持ちで私の言葉を待っている。母親は心労からか、前回に増してやつれた印象だ。だが、ここで真実を伝えなければ、本格的な捜査には乗り出せず、Wを助けることもできない。私は意を決して説明を始めた。

「ご両親にはショックを与えることとなりますが、息子さんは覚醒剤を使用していると十分に疑えます。まず、このアルミ箔に付着しているのは覚醒剤の燃えかすです。裏の焦げ痕は、ライターの火であぶった痕跡。

アルミの上に少量の覚醒剤を載せて、下からライターの火であぶって燃焼させ、立ち上る煙をストローで吸い込む。お持ちいただいた息子さんの所持品から疑われるのは、いわゆる“あぶり”と呼ばれる覚醒剤の使用法です(※近年では、アルミ箔ではなく小瓶を使用するケースが増えている)。

注射が苦手でも、この方法を使えば容易に覚醒剤を摂取できますし、注射痕も残りません。発見されたライターはそのためのものでしょう。ポリ袋は覚醒剤が入っていたものと思われます。おそらく覚醒剤はネットで買っているのでしょう。

これから鑑定に回しますが、覚醒剤反応が出ればすぐさま捜索に移ることになります。お気持ちはわかりますが、息子さんの状態は芳しくない。このまま放置すれば健康被害のみならず、最悪の場合、二次犯罪を引き起こす危険性もある。本人も苦しんでいるはずです」

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