あのマイカルの「倒産劇」を回顧して見える真理 細部を描ききれない「大きな構想」が会社を潰す
最終的には、2001年9月、民事再生法※、そして11月に会社更生法を申請し、イオンのスポンサードにより再生を目指すことになったのです。負債総額はグループ合計で1兆9000億円。当時、戦後第4位の規模の倒産であり、小売流通業では戦後最大の倒産劇となりました。
器は次々と作ったが、肝心の魂を入れ忘れた
マイカル倒産の直接的な原因は、1980年代後半から舵を切った「マイカルタウン」の推進であることは間違いありません。「街づくり」というコンセプトの下に抱えた大きな負債が、10年の時を経て爆発したわけです。しかし、競合であるジャスコ(イオン)やイトーヨーカ堂も店舗の大型化を推進していました。方針そのものに違いがなかったとすれば、本質的な差はどこにあったのでしょうか。
その差は、「現場の緻密さ」にあります。大きな「店舗の形態」もさることながら、店舗の最前線の現場で消費者ニーズを見極めながら、モノが売れるような仕掛けをどれだけ試行錯誤してきたか、ということです。
例えば、ヨーカ堂においては、仮説検証を繰り返しながら、商品数の絞り込みと販売量の確保にこだわってきました。ジャスコにおいては、デフレニーズを踏まえて、圧倒的な低価格販売にこだわり、現場レベルで「どこよりも安い」というブランドイメージの形成に努めてきたわけです。
しかし、マイカルは、日本の高度成長時代に形成された「置けば売れる」という成功体験に基づく大雑把な販売手法から抜け切れませんでした。「マイカル宣言」に見られるような大きなコンセプトに走り、一方で必要な現場の緻密なマーケティング施策が疎かになっていたのです。
結果的には、消費者目線レベルでは、どれだけ店舗が大きくても、「何かいつも新しい変化がある売り場」に引っ張られていきます。マイカルが本当にやるべきだったのは、新しく次々に大型店の器を作り続けることではなく、作った器1つ1つにしっかり魂を入れていくことだったのでしょう。
時に私たちは大きな戦略構想を立てる場面にぶつかります。そういう場面で問われているのは、いかにして既存の延長線上にない構想を描くことができるか。つまり、「風呂敷を大きく広げる力」が求められます。
しかし、同時に忘れてはならないのが、広げた風呂敷を最後まで畳み切ること。オペレーションレベルまで細部を描き切り、そしてうまくいくまでフィードバックサイクルを回し切っていくことなのです。戦略づくりにおいては、ややもすると、風呂敷を広げた張本人が注目されがちですが、本当に重要なのは、その風呂敷を畳み切った人です。
私たちは、はたして風呂敷を畳み切っているでしょうか? このマイカルの事例からは、長期的な現場レベルの緻密な設計の価値が問われていると感じます。
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