今こそ「わからず屋」上司に引導を渡すべき理由 根っから無礼な人は自分が無礼と気づかない

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強欲資本主義とも呼ばれる時代を作ったアメリカから、ここまで懇切丁寧で、一朝一夕でない礼節論が打ち出されたことに驚くとともに、もともとそのような礼節論を持っていた日本は、逆に今や見失いつつあるのではないかと気がかりになる。

隅々の人々にまで配慮するリーダーとしての礼節を心得たうえで、次はいかに「礼節ある会社」を作り、組織に礼儀を重んじる文化を根付かせるかというテーマが展開される。

グーグル、アマゾン、ナイキ、マイクロソフトなど世界のトップ企業が実践するプログラムとともに、数々の実例が紹介されていくのだが、その手法は科学的かつ合理的でありながら、「目に見えない成果」を評価するという視点が盛り込まれていることが非常に新鮮だ。

ポラス氏は、大学バスケットボールの名コーチであるジョン・ウッデン氏が、得点をあげた選手だけでなく、めったに脚光を浴びることのない、チームのために陰で懸命に努力する選手にも目を配っていたことに着目する。

人に感謝の意を表すことは、礼節ある人間になるためには絶対に必要なことだ。
だが、私たちは、他人のしてくれたことに気づけない場合も多い。気づけなければ、当然するべき感謝もできないことになる。企業は、人の評価基準を見直す必要がある。
(第12章「誤った評価システムを改善する」)より

これは日本語の「おかげさま」の思想だ。日本人は何気なく使っている言葉だが、漢字で書くと「御陰様」。「陰」というものは決して無視してよい暗い存在ではなく、恩恵を与えてくれる、神仏のように尊いものだという意味で「御陰様」と書かれるのである。

スポットライトの当たる人ばかりが評価されがちな社会で、このような「おかげさま」の評価が組織のなかに根付けば、どれほどの人々が働く意欲を持ち、活性化することだろう。

組織の生存のためには、無礼な社員に対してドライな対応が必要になるときもあるが、ポラス氏は、まずは無礼な社員と向き合って改善を信じること、そして、辞めていく際にも敬意を持って接することなど、やはりどこか日本的で、「こころ」の持ちように通ずるようなやわらかさを兼ね備えたノウハウを提唱している。

行きすぎた「利益至上主義」に対する反省

『シンク・シビリティ』は、日本人にとっては気後れするほど厳しい「個人の力」を試す視点と、驚くほど日本人と親和性のある感覚をあわせ持った1冊だ。そこには、行きすぎた利益至上主義に対する反省と検証から見いだされたものが含まれているのではないかとも感じさせられる。

この先の日本社会が取り戻さなければならないもの、自信を持つべき本来の姿も示唆されており、気づきの多い1冊だ。自分を鍛えたい人、新しい視野を切り拓きたい人、本当の意味で偉大なリーダーを目指したい人、そして、意欲に満ちた組織を育てたい人にとっては、必読の書である。

泉美 木蘭 作家・ライター

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いずみ もくれん / Mokuren Izumi

1977年三重県生まれ。24歳でイベント企画会社を起業し、即刻倒産。借金返済のために働く日々をつづったWebサイトが話題を呼び、作家デビュー。以降、週刊誌やWeb媒体等で執筆。TOKYO MX「モーニングクロス」「激論!サンデーCROSS」などテレビ番組でレギュラーコメンテーターとして出演。著書に『オンナ部』(バジリコ)、『エム女の手帖』(幻冬舎)、『会社ごっこ』(太田出版)等。趣味は合気道とラテンDJ。

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