今こそ「わからず屋」上司に引導を渡すべき理由 根っから無礼な人は自分が無礼と気づかない

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次は、コーチングを受ける、同僚や友達などチームからのフィードバックを受ける、「ゴールドスミス式360度フィードバック」を受けるなど、徹底して自己を客観視していく。

この時点で筆者はフィードバックする側の視点になり、「顔を合わせる人に礼節のなさを指摘するなんて、角が立ちそうでイヤだな……」と尻込みする感覚を覚えた。しかし、ふと思い至る。実はこの感覚こそが、無礼さと闘えないほど遠慮がちでお行儀のよい、つまり、礼儀に縛られて無礼に負けてしまう、いかにも日本人らしい弱点でもあるのではないか?

個人主義の強いアメリカ人と、集団主義を重んじる日本人との感覚の違いでもあるだろう。だが、集団主義のよさが発揮されるほど、いまの日本人には活力が感じられない。あまりに閉塞的になった集団の空気に埋没させられて、すっかり個人の力が弱まっているのが実情だ。

礼節を欠いた無理な要求や、他人のエゴの尻ぬぐいさえも自己犠牲的に受け入れて、人を尊重しないリーダーに次々と従ってしまう忖度文化がクローズアップされたことは、その表徴でもある。

礼節とは、根本的には、人間らしく相手と関わるということを意味する。自分は他人と関わる時に果たしてどういう態度を取っているかを確かめる必要がある。
(第6章「礼節ある人が守る3つの原則」より)

ポラス氏のメソッドは、一見スパルタ式に感じる部分もあるが、そこには、「自分自身を客観的に見直して、弱点を克服し、本当の意味で人を尊重できる人間に成長する」という力強い目的がある。それは、個人の力に対する信頼でもあるし、より能動的で主体性のある人格を形成していこうというメッセージでもあるのだ。

偉大なリーダーに求められる「礼節」

個人の礼節は、さらに高めていくことで、周囲の人々に影響を与える人物になれるというリーダー論へと展開されていく。

ここで刮目に値するのは、個人の礼節が、その人自身をよくするという私的な損得を超えて、組織全体を包摂していくような、より大きな視野へとつながり、広がっていくという世界観が暗に示されていることだ。

リーダーの礼節としては「与える人になる」「成果を共有する」「褒め上手な人になる」「フィードバック上手になる」「意義を共有する」という5つの心得が示されるが、これらはどれも、まずは個人としての基本的な礼節をしっかり身に付けたうえであることが前提となっており、いきなりこの章をつまみ読みしたところで、本当の礼節にはならず、決して効果を発揮できないものであることも理解できるようになっている。

まずは己を知り、そしてはじめて上に立つ役割として人々にコミットしていけるということだ。

良いリーダーはスポットライトの下で自ら輝くが、偉大なリーダーは、自分だけでなく、自分の下にいる人たちを輝かせる。
(第8章「ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得」より)

ポラス氏は、偉大なリーダーには、手柄を独り占めすることなく、自分を助けてくれたすべての人に配慮する謙虚さが必要だと説く。思い浮かぶのは、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」――まさに日本人が尊敬してきたような、「徳」を積んだリーダー像なのだ。

次ページなぜ、アメリカから「礼節論」が打ち出されたのか
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