「鬼滅の刃」イスラムへの不理解が招いた大失敗 ブルーレイ・DVD第4巻が回収になった理由
ツイッターでこの問題を指摘したアラビア語の投稿には、「知らずにやったとは考え難い。われわれは許す必要などない」「アザーンという聖なるものを音楽と混ぜ合わせる行為は許し難い」といった怒りのコメントが、さまざまな言語で書き込まれている。
「『ノラガミ』のときと同じ過ちだ」と、2015年に『ノラガミ』という別のアニメ作品でもアザーンが使われて問題になったことを指摘する書き込みもあった。
「神の法」に触れて起きた事件
制作会社は、「当該箇所は市販の音声素材を使用して制作した」と法的問題はない旨を強調している。しかしこれは、あくまでもわれわれの価値観である。
世界に16億人いるイスラム教徒は、われわれが通常「法」と認識する人間が定めた「人の法」とは別に、神が『コーラン』の啓示を通して定めた「神の法」に従うことを義務だと信じている。アザーンの不適切使用は神の法を犯したと見なされたのだ。
神の法を犯し神や預言者ムハンマドを冒瀆した、と見なされたことを契機に発生した事件は過去に多くある。サルマン・ラシュディ著『悪魔の詩』を訳した五十嵐一・筑波大学助教授は1991年、何者かに喉を切り裂かれて殺害された。預言者ムハンマドの風刺画を掲載したフランスのシャルリ・エブド社は2015年、アルカイダ系組織に襲撃され風刺画家ら12人が死亡した。
制作会社は「イスラム教ならびにイスラム教徒の皆様の心を傷つける、または冒瀆するという意図は決してございませんでした」と釈明している。だが神への冒瀆を死に値する重罪と信じるイスラム教徒に、この言い訳は通用しない。
日本のメディアや専門家はこれまで、「イスラム教は平和の宗教」といった理想論しか語ってこなかった。しかしこれからの時代を生きる日本人には、イスラム教の論理と価値観はわれわれとは異なるという現実を受け止め、できる限り衝突を回避し、共存していくことが求められている。
<本誌2019年12月10日号掲載>
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