遊覧飛行とSL体験、一石二鳥ツアー誕生の裏側 成功の鍵は「空港民営化」にあった
2018年11月30日に1回目が開催され、この日は7回目の開催だ。最小催行人数70人、定員80人という「ほぼ満席にならなければ催行されない」ツアーだが、今回は募集開始から6日で完売。11月23日に開催された遊覧飛行&トーマス号乗車プランは前倒しで募集が始まり、そちらもすぐに完売した。
航空会社と空港、そして地方鉄道という組み合わせによるツアーは、どのように生まれたのか。きっかけは、富士山静岡空港の民営化だった。2009年6月に開港した富士山静岡空港は、2019年4月から三菱地所・東急電鉄グループが運営を行っている。
同グループは運営権取得に際し、現在年間約70万人の空港利用者を、2038年度には135万人にまで増やすことを目標に掲げ、「今までにない、静岡県内の観光素材を使った象徴的なツアーを実施」するとしていた。その具体的な施策の1つとして実現したのが、3社共同ツアーだった。
「もともと、FDAと富士山静岡空港は、元旦に遊覧フライトを実施した実績があります。これに、空港から最も近い鉄道事業者で、観光素材として”つかみ”のある大井川鉄道を組み合わせれば、富士山静岡空港ならではの観光商品を作れると考えたのです」(谷津基広・富士山静岡空港営業部観光・地域連携ユニット長)
東海道本線の金谷駅を起点とし、千頭、そして井川までを結ぶ大井川鉄道は、蒸気機関車の保存運転で40年以上の歴史を持つ観光路線だ。旅客収入の大部分を観光利用に頼るが、ツアーバスの規制強化によって東京からの日帰りツアーが不可能になり、新たな商品が求められていた。
ナイトステイの機材を活用しコスト面をクリア
大井川鉄道の拠点駅である新金谷駅は、富士山静岡空港から車で20分弱の位置にある。遊覧フライトで富士山をはじめとする静岡の見どころを空から楽しみ、すぐに列車に乗り換えて、大井川の大自然に飛び込んでいく。もちろん、SL列車もある。
富士山静岡空港と大井川鉄道は、静岡の観光素材を効率的かつ立体的に提供できる位置関係にあった。そして、大井川鉄道が傘下に旅行会社を持っていることも、速やかな商品化につながった。むしろ、今まで連携していなかったほうが不思議である。
だが、実現にあたってはハードルもあった。
第1に、機材の問題だ。FDAには14機の航空機があるが、遊覧フライトのために1機を引き当てるとコストが高くつく。そこで、前夜から駐機しているナイトステイの機材を活用することにした。ナイトステイのうち朝の出発が最も遅い、9時発の福岡行き143便の機材を前倒しで使用したのである。
富士山静岡空港の管制業務が始まるのは7時30分。9時発の便は、8時30分までにスポットにいる必要があるから、遊覧飛行に使えるのは7時30分から8時30分までの1時間。ギリギリだが、これならば機材運用を変えることなく遊覧飛行が実施できる。一方で、ツアーは朝6時前に静岡駅(または富士山静岡空港)集合となり、多くの人が前泊が必要となった。
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