遊覧飛行とSL体験、一石二鳥ツアー誕生の裏側 成功の鍵は「空港民営化」にあった

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「富士山静岡空港は今年開港10周年を迎えましたが、まだまだ静岡の人々には、飛行機に乗ってどこかへ行くという習慣が根付いていません」

そう語るのは、フジドリームエアラインズの中井秀昌・富士山静岡空港支店長だ。

「静岡の人にとって、飛行機を身近な乗りものとして感じてもらえるまでには、1世代ぶん、20年から30年はかかるでしょう。そうした中で、今回のツアーのような、幅広い世代に楽しんでもらえる取り組みを続けていくことは重要です」(中井氏)

大井川鉄道の経営企画室で広報を担当する山本豊福氏は、「これまで、当社は関東から関西にかけてのお客様ばかりに目が向いていました。今後は航空会社や空港の方々とさらに協力して、北海道の人や九州の人などに静岡の魅力をご紹介できるよう努力していきたいと思います」と、空港・航空会社との連携による集客拡大に意欲を示した。

空港に近い秘境駅

課題もある。何より、月1便が限度という現状だ。実は、FDAと富士山静岡空港は、大井川鉄道とのコラボレーションの成功を受けて、12月に天竜浜名湖鉄道とのコラボレーションツアーを開催する。ところが、遊覧フライトの制限から大井川鉄道のツアーと同時開催となり、飛行機の80席を大鉄と天浜線で半分ずつシェアする形になった。

これでは、提携先が増えるたびに座席が減り、静岡の定番コンテンツとして発展させるのは困難だ。一緒に商品を育ててきた大井川鉄道としても、胸中は複雑だろう。利用者側から見ても、月1度のツアーでは気軽に参加しにくい。

もちろん、職員の負担増や航空路の混雑は無視できないが、静岡ならではのコンテンツに育てるなら、できれば週末ごと、せめて隔週くらいのペースで実施してほしいところだ。

こうしたツアーが定着すれば、富士山静岡空港とFDAは「いつでも遊覧フライトを楽しめるユニークな空港と航空会社」というイメージが定着するうえ、「まず静岡県内の見どころを一通り機内から見た後、各地へ向かう」という、静岡県ならではの旅のスタイルを作れる。大井川鉄道も、「空港に最も近い蒸気機関車と秘境駅」として、全国的な認知度の向上が可能だろう。

3社共同ツアーには、単に「飛行機とSL両方に乗れてお得」という以上の可能性がある。今後のツアー拡大に期待したい。

栗原 景 ジャーナリスト

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くりはら・かげり / Kageri Kurihara

1971年東京生まれ。出版社勤務を経て2001年独立。旅と鉄道、韓国をテーマに取材・執筆。著書に『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)等。

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