ソフトバンクが抱える「財務」最大のリスク要因 借り入れを生かす戦略が逆回転しかねない

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こうした「逆レバレッジ(負のレバレッジ)」の際、実際に何が起きるのでしょうか。

いろいろ考えられますが、資金調達リスク、流動性リスク、マーケットリスクなどが顕在化します。資金調達リスクとは、資金調達を行うことが難しくなる、資金調達に支障が出るリスク。流動性リスクは、マーケット自体の流動性が枯渇したり、減少したりするリスク。マーケットリスクは、不動産マーケットやITマーケット、ユニコーンマーケットなどのマーケット自体における価格が下落したりするリスクのことです。

「逆レバレッジ(負のレバレッジ)」が悪化してくると、これらのリスクが顕在化してくる可能性があるのです。「逆レバレッジ(負のレバレッジ)」によってさまざまなリスクが顕在化してくると、借り換えファイナンスが困難になったり、所有している物件やプロジェクトの売却を迫られたりします。

ソフトバンクグループが債務保証をしているわけではなく返済義務もない「ノンリコース」による資金調達であっても、実際は「リミテッドリコース」でリスク負担を迫られることになります。

ウィーワーク問題で顕在化する「ノンリコース」問題

ウィーワークのIPO延期に関連する「ウィーワーク問題」においては、「ノンリコース」「リミテッドリコース」の顕在化を指摘する必要があります。ソフトバンクグループはウィーワークへの資金をエクイティ(株式)で出しています。もともとマジョリティ(過半数)をとっているわけでもなく、本来ならソフトバンクグループにウィーワークを救済する義務はありません。

しかし、経済実態的には、ウィーワークはソフトバンクグループのコントロール下にあり、支援をしなければならない。実際、ソフトバンクグループは大規模な資金コミットメントをふくむウィーワークへの追加支援をしています。つまり、非遡及の「ノンリコース」「リミテッドリコース」の投資であるにもかかわらず、実際には追加のリスク負担を行っているのです。

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これこそが「逆レバレッジ」のリスクシナリオなのです。

「ウィーワーク問題」が顕在化したあとに開催された2019年11月6日のソフトバンクグループの決算説明会において、孫正義社長は「救済型投資は今後は一切しない」と言明しました。

これは、まさに「逆レバレッジ」が起きることを絶対に回避したいという思惑が背景にあったと考えられます。金融財務戦略上レバレッジを多用し、レバレッジの代名詞ともなっているソフトバンクグループとしては、「逆レバレッジ」が起きることは絶対に回避したい。筆者は、同決算説明会における孫社長の最大の目的はここにあったのではないかと考えています。

孫社長の言明がマーケットや投資家から本当に信認されるか否かは、これからの取引における対応次第であることは明らかであり、ソフトバンクグループの金融財務戦略の最大のリスクも「逆レバレッジ(負のレバレッジ)」にあるのです。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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