意外に正しかった100年前の「日本の未来」予測 100年後も「名探偵コナン」は続いているのか

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サントリー文化財団ではこれまでに多くの研究会を主宰してきている。私自身も地域文化に関する研究会や国際プロジェクトなどを通して、専門分野や職業の垣根を超えた知的交流の場に参加させていただいた。毎回の丁々発止のやり取り、そしておいしい食事とお酒を交えながら、さらに話に花が咲き、しまいには尾ひれまでついてゆく楽しさは格別のものだった。

そうした社交の場を通して、互いに気心が知れ、相手の思考や発想の「癖」のようなものが見えてくる。まさに著者と著作がつながる瞬間である。今回、そうした研究会を通して親しくなった方々の論考――例えば、土居丈朗氏の「昔、日本は『借金大国』だった」、玄田有史氏の「希望、だって(笑)。」、待鳥聡史氏の「それでも民主主義は『ほどよい』制度だろう」などを読むにつれ、とてつもなく彼ら「らしさ」を感じる。

ちなみに私自身は「それでも私たちは愚直に未来を予測し続ける」という題目で、次のように記した(一部抜粋)。

人知で予測しうる未来は『織り込み済み』とされ、むしろその『裏をかく』、あるいは『一歩先をゆく』行為が付加価値を持つ。つまり予測とは予測した時点ですでに外れることを宿命づけられているものではないか。ビッグデータや人工知能(AI)が弾き出す未来を算出することで、一方でリスクを減らそうとしつつ、他方で、その『裏をかく』、あるいは『一歩先をゆく』行為を人間は性懲りもなく、あるいは人間が人間であるがために、あるいは人間が人間であるがゆえに、100年後も繰り返し続けているのではと思う。人間の精神の働きは、実は愚直なまでに不変で、ロボットやAIごときで変わるとは思えない。人間はそれほど愚かではないし、逆にいえば、そこまで賢くも大胆でもない。

題目を聞いた待鳥氏から「いかにも渡辺さんらしいですね」とからかわれたが、内心、少しうれしかった。

著名人それぞれの知見や人生観がにじみでている予想

今回はあくまでお祭り企画であって、政府やシンクタンクの予測レポートのような数字やグラフで武装したきまじめな体裁はとっていない。しかし、だからといって、単なる思いつきや当てずっぽうではなく、各執筆者がそれぞれの分野が培ってきた知見や人生観がどこかににじみでているはずである。それらを探り当ててみるのも面白そうだ。

『アステイオン』91号(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

日々の激しいニュースサイクルの中で、中長期的な社会や世界の姿への手がかりをつかみかねている人は多いと思う。そうした方々には、ぜひ、今号の『アステイオン』を年末年始の読み物にお薦めしたい。

あるいは勉強会の輪読テキストとして、本書を出発点に、気の合う仲間と100年後の予想図を披露し合うのもいいだろう。

さらには、100年後の世界を生きているかもしれない子供や孫へのプレゼントとして1冊託しておくのも一案だ。デイヴィッド・A・ウェルチ氏は「名探偵コナンはまだ続いている」と予測しているが、ぜひ、正否のほどを確かめ、ウィキペディアの彼のページに書き込んでもらいたい。

渡辺 靖 慶應義塾大学環境情報学部教授

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わたなべ やすし / Yasushi Watanabe

1967年生まれ。専攻は、文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。上智大学外国語学部卒業後、1992年ハーバード大学大学院修了、1997年Ph.D.(社会人類学)取得。2004年、『アフター・アメリカ』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『アメリカン・コミュニティ』(新潮選書)、『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書)など。

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