野村HD、「奥田新社長」が背負う期待と難題 不振の国内営業部門をいかに立て直すか

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そこで、野村HDはグループ全体で2022年3月までに1400億円のコストを削減するなど、収益構造を大きく変える「改革」の途上にある。今年に入ってからリテール改革を進め、支店の統廃合を進める一方で、「マッチング」と呼ぶ制度改革も断行した。これまで1人の営業員が担当する顧客は資産クラス・年齢・職業がバラバラだったが、顧客をニーズ別に3層にわけ、それぞれの営業員が専門性を生かして活動できるようにした。

野村HDの新CEOに就く奥田氏(左)は「市場のニーズをとらえ、変革の速度をあげたい」と就任の抱負を語った(撮影:尾形文繁)

永井氏後継の有力候補としては、今年4月に野村HD副社長に就任した奥田氏のほかに、2018年に奥田氏と同時にグループCo-COOに就いた森田敏夫がいた。奥田氏が投資銀行部門を中心に、主に海外で経験を積んできたのに対し、森田氏は国内の支店長を経験し、2012年に野村HDの営業部門CEOに就任。2017年からは野村証券の取締役兼代表執行役社長を務めている。

もし、リテール畑を歩んできた森田氏がグループCEOに就任すれば、現場に対する理解の深さを生かすことができたかもしれない。ただ、リテール営業出身だけに、痛みを伴う「古巣」の改革を進めるにはさまざまな困難もあるだろう。今年8月末に完了したマッチングでも、一部の営業員からは不満の声が出た。

証券業界に押し寄せるメガトレンド

そうした中で、投資銀行や海外の知見が豊富な奥田氏をCEOに起用したことは、野村HDが掲げる収益構造改革への不退転の覚悟を内外に示すメッセージともいえる。国内営業について奥田氏は「自分の経験がないところはあるだろうが、マネジメントはチームワーク。不安を持っていることはまったくない」と話した。

アメリカに端を発した株や投信の手数料無料化など、証券業界には構造変化の荒波が押し寄せている。「伝統的な(証券会社の)ビジネスモデルは転換点にあり、デジタル技術の革新が顧客の行動様式だけではなく、金融の枠組みを変えてきた。(野村HDは)過去の清算だけではなく、ビジネスプラットフォームの再構築など、未来に向けた体制作りもしてきたが、(こうした)メガトレンドが(今後)ますます本格化し、振れ幅とスピードはさらに大きくなるだろう」(永井CEO)

巨艦・野村HDの舵取りを任される奥田氏はこれから4月の就任に向けて、主要部門の人事などを固めていく。永井氏のいう「メガトレンド」にうまく立ち向かうことはできるのか、その手腕が問われることになる。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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