酒をやめた「大酒飲み」から見えた衝動の抑え方 自分への報酬も怒りの感情も消えてはいない

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武田:僕は仕事中、ここまでやったら1回休もうというときに柿ピーを使います。仕事部屋から離れたところに柿ピーを置いておいて、ここまでやったら食べられるんだぞ、と思うと、これ、なかなか頑張る動機になるんです。普通の味と梅味があったら、今日はどっちを食べようかな、と考えながら原稿を書いている。お酒じゃなくても、そんなふうに動機づけしたり、リセットするためのアイテムが必要なのかもしれません。

町田 康(まちだ・こう)/作家。1962年大阪府生まれ。町田町蔵の名で歌手活動を始め、1981年パンクバンド「INU」の『メシ喰うな!』でレコードデビュー。俳優としても活躍する。1996年、初の小説「くっすん大黒」を発表、同作は翌1997年Bunkamuraドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞を受賞した。以降、2000年「きれぎれ」で芥川賞、2001年詩集『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、2002年「権現の踊り子」で川端康成文学賞、2005年『告白』で谷崎潤一郎賞、2008年『宿屋めぐり』で野間文芸賞を受賞。著書多数(撮影:塚本 弦汰)

町田:逆に、柿ピーを仕事場に置いて、そこへ行けば、仕事をすれば食べられるという形にはしない?

武田:柿ピーの存在が本格化してくるのは、仕事が中盤くらいになって滞ってきたときなんです。なんとか踏ん張ろうとしたときに、ゴールにある柿ピーを思い浮かべるという、そんな認識になっているんです。町田さんは、お酒をやめてから、新たに浮上してきた欲望はあるんですか?

町田:前は全然食べなかったまんじゅうとかチョコレートとかを食べるようになりました。そう考えると、やっぱり完全に乗り越えてはいないというか、自分に報酬を与えたいという気持ちは消えてないですね。まぁまんじゅうを食べることの弊害はあんまりありませんけども。

武田:いつか自分への報酬を望まなくなる日が来るんでしょうか。

町田:いやぁ、来ないんじゃないですかね。

酒がない中で感情を整える方法

武田:何かに腹が立ったり、感情が整わなくなったりしたとき、断酒されてからはどうやって抑えていらっしゃるんですか?

『しらふで生きる 大酒飲みの決断』(幻冬舎)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

町田:僕ももう歳をとってきたんでね、怒りが浮上してきたときは即座に怒るんじゃなく、その原因を考えていく。そうすると、ああこれは自分の人間的なダメさ、あるいは思考の型や世の中の見方が原因になっているな、と思うようになりました。わかったうえで結局怒ったりもするんですが(笑)。

武田:え、わかったのに怒ってしまうんですか?

町田:理解できたから怒りがなくなるなら、それは悟りですよ。人間である以上、怒りや悲しみ、ねたみ、そういうネガティブな感情から免れることはできないと思います。でも原因を考えることはできる。考えたうえで腹を立てるか、相手に言うか言わないか、言わないにしろ何らかの行動をとるか、あるいは虚構化するか。それはケース・バイ・ケースですね。

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