酒をやめた「大酒飲み」から見えた衝動の抑え方 自分への報酬も怒りの感情も消えてはいない
武田:僕は仕事中、ここまでやったら1回休もうというときに柿ピーを使います。仕事部屋から離れたところに柿ピーを置いておいて、ここまでやったら食べられるんだぞ、と思うと、これ、なかなか頑張る動機になるんです。普通の味と梅味があったら、今日はどっちを食べようかな、と考えながら原稿を書いている。お酒じゃなくても、そんなふうに動機づけしたり、リセットするためのアイテムが必要なのかもしれません。
町田:逆に、柿ピーを仕事場に置いて、そこへ行けば、仕事をすれば食べられるという形にはしない?
武田:柿ピーの存在が本格化してくるのは、仕事が中盤くらいになって滞ってきたときなんです。なんとか踏ん張ろうとしたときに、ゴールにある柿ピーを思い浮かべるという、そんな認識になっているんです。町田さんは、お酒をやめてから、新たに浮上してきた欲望はあるんですか?
町田:前は全然食べなかったまんじゅうとかチョコレートとかを食べるようになりました。そう考えると、やっぱり完全に乗り越えてはいないというか、自分に報酬を与えたいという気持ちは消えてないですね。まぁまんじゅうを食べることの弊害はあんまりありませんけども。
武田:いつか自分への報酬を望まなくなる日が来るんでしょうか。
町田:いやぁ、来ないんじゃないですかね。
酒がない中で感情を整える方法
武田:何かに腹が立ったり、感情が整わなくなったりしたとき、断酒されてからはどうやって抑えていらっしゃるんですか?
町田:僕ももう歳をとってきたんでね、怒りが浮上してきたときは即座に怒るんじゃなく、その原因を考えていく。そうすると、ああこれは自分の人間的なダメさ、あるいは思考の型や世の中の見方が原因になっているな、と思うようになりました。わかったうえで結局怒ったりもするんですが(笑)。
武田:え、わかったのに怒ってしまうんですか?
町田:理解できたから怒りがなくなるなら、それは悟りですよ。人間である以上、怒りや悲しみ、ねたみ、そういうネガティブな感情から免れることはできないと思います。でも原因を考えることはできる。考えたうえで腹を立てるか、相手に言うか言わないか、言わないにしろ何らかの行動をとるか、あるいは虚構化するか。それはケース・バイ・ケースですね。