写真に騙されるな!アドビが打ち出した「対策」 写真も動画も「加工」されたものかもしれない

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2019年のAdobe MAXの「Sneaks」では、その写真が加工されたかどうかを機械学習処理によってあぶり出すという、開発中の技術も披露された。ピクセル単位で分析を行い、それが撮影されたままの写真なのか、顔の一部を編集しているのかを明らかにし、元の写真に復元することもできるとして驚きの声が上がった。

Adobeはこれまで、クリエーターの時間短縮と創造性の発揮を目指して、AIを用いたクリエイティブアプリを開発してきた。しかしその技術の精度が高まり、また手軽に情報を共有する手段が普及したことで、事実を誤認させる写真を容易に作って広めることができるようになった。これがディープフェイクが発生した現在の状況だ。

この状況を放置したまま、Adobeがクリエイティブ製品のAI技術をアピールすればするほど、「Adobeのソフトウェアがディープフェイクの温床になっている」と判断されかねない。これを避けるためには、コンテンツの出所を明らかにする情報の整備に取り組まなければならなかった。

Adobe Chief Product Officer and Executive VP スコット・ベルスキー氏(筆者撮影)

Adobeのクリエイティブ製品全般を舵取りするチーフプロダクトオフィサー、スコット・ベルスキー氏はコンテンツIDの取り組みに聞いたところ、次のように述べた。

「コンテンツの透明性が、創造性に制限をかけるとは思いません。このプロジェクトは消費者に『そのコンテンツがどこからきたのか』『何をみているのか』を知らせるものです。Twitterにも青いチェックマークがありますよね。これは実在する人や信頼できるニュースソースであることを示しており、情報の信頼性を表しています。われわれは同じことを、コンテンツに対して行おうとしているのです」(ベルスキー氏)

その一方で、前述のラオ氏は、「Adobeとしては、コンテンツをニュートラルに扱う」とも答えている。デザインやクリエーターによる作品も尊重するし、事実を伝えようとしている写真も尊重する。そのうえで、コンテンツがどんな意図を持っているのか、消費者が判断しやすい材料を提供することを目指すという。

最大の問題点

Adobeのコンテンツに対する判断材料を整備する取り組みには、TwitterとThe New York Timesが加わった。今後より幅広いプラットフォームやメディアが参加していくことで、消費者にとってよりよい環境が作り出されると期待している。しかし、ハードルはまだまだ高い。

消費者の「見る目」を育てることから始めなければならない。コンテンツの調整や編集がいかに行われているのか、現在のデジタルクリエイティブの技術がどこまで進んでいるのか、知識がなければいくら情報が提供されたとしても判断できない。消費者に対するクリエイティブ教育がなければ、情報があっても意味をなさないのだ。

そして、現段階で非常に大きな欠点があるとすれば、Facebookが参加していないことだ。

Twitterは政治広告の排除や今回のコンテンツの出所の明示など、プラットフォームとしてあるべき姿へ近づく行動を素早く行っており、Facebookの遅さ、あるいは無関心さが際立つ結果となっている。Adobeはなんとしても、2020年のアメリカ大統領選挙までにFacebookを引き込まなければならない。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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