それは、為替が円高に進む気配がほとんどなかったからだ。この1カ月で、金融市場の雰囲気は一変した。すべてが楽観的に傾いた。ドナルド・トランプ米大統領の言葉に市場が振り回されているのは本当に馬鹿馬鹿しいが(これはわざと市場はボラティリティを作るために振り回されている振りをしているのではないかと疑っているが。この議論はまた改めてしたい)、一応米中戦争は楽観に傾いた(しかし、日銀金融政策決定会合直後にまた逆に傾き、少しだけ円高になった。
やはり、という感じではある)。景気循環も世界的に少し持ち直した雰囲気がある。少なくとも株価はアメリカも日本も最高値更新の勢いだ。さらに、もっとも重要な点は、為替はリスクオフの円高はその気配すらなく、ましてやアメリカ長期金利は短期の政策金利の一連の利下げにもかかわらず上昇し、ドルが安くなる気配は全くないということだ。これなら、日銀が動かなくても市場は文句を言わない。
それなら、なぜアメリカは利下げをしたのか、とりわけ今回10月末はなぜか、というのが疑問だが、彼らのロジックは予防的利下げであり、これ以上はとりあえず必要ないから、今回やっておいて後は様子見、ということだ。これは、アメリカと日本の文化の違い、アメリカは動けるときはできるだけ動く、日本は必要なときだけ動く、ということがあるが、それ以上に、現状の金融政策の追い込まれ方の違いがある。
何もできない日本
つまり、アメリカはこれまでの利上げ、出口戦略を着実に進め、量的緩和も終了し、金融政策の正常化が終了していたことが大きい。一方の日本は、せっかく過剰な景気対策で景気が過熱したにもかかわらず、何とかの一つ覚えのように、デフレ懸念、物価のモメンタムが損なわれる懸念、という無駄な概念に縛られ、金融緩和の出口に向かえなかったまま、景気後退局面が来てしまった。したがって、いかなる緩和拡大も経済どころか金融市場にもマイナスだから、何もできない。とりわけ、銀行に大きな負担になっており、緩和拡大のコストが極めて大きくなっているから、何もできないのだ。
しかし、黒田総裁は前回、次は何か絶対に持ってくる、という記者会見をしたから、今回、緩和というアクションがなかったとしても何らかの「お土産」はあったはずだ。それが、多くの市場関係者が予想していたとおりのフォワードガイダンスの見直し、というものだった。
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