法務相も辞任、止まらぬ安倍政権「辞任ドミノ」 閣僚連続辞任で政局の節目変わるきっかけに

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さらに、首相の最側近とされる萩生田光一文部科学相のいわゆる「身の丈」発言も、「閣僚辞任まで発展しかねない」(自民幹部)との声もあがる。

2021年1月に始まる大学入学共通テストで導入される英語の民間試験に関して、萩生田氏は民放テレビ番組で「身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」などと発言し、発言を撤回・陳謝したばかりだ。学生の親の収入格差や受験をめぐる地域格差による不公平を容認する発言とも受け取れるだけに、野党側は「発言は言語道断で、撤回ではすまない」(立憲民主党幹部)として閣僚辞任を迫っている。

河井氏の辞表を受理した首相は、すぐさま森雅子元少子化担当相を後任に決めた。菅原氏辞任の際も直ちに後任を決めており、首相サイドは「即断即決の対応は、政権への打撃を最小限にとどめるため」(側近)と解説する。しかし、主要野党は河井氏辞任を受けて「もはや、内閣総辞職に値する異常事態」(国民民主党幹部)との認識で一致し、31日に予定されていた国会審議もすべて先送りとなった。

相次ぐ閣僚辞任で「12月総選挙説」は消滅か

今国会で政府が最優先課題とする日米新貿易協定の承認について、政府は会期内成立を確定させるために11月6日の衆院通過を目指しているが、連続辞任劇の影響で今後の国会審議が大幅に停滞する可能性がある。さらに、首相が今国会での審議を強く求める衆参両院の憲法審査会での憲法改正論議も、野党側は「もはや、今国会で本格論議に入る状況ではない」(立憲民主党幹部)と徹底抗戦の構えを強めている。

今国会は、菅原氏の経産相辞任までは「与党の思惑通り、順調に進んできた」(自民国対)だけに、与党内には動揺と不安も広がる。野党側への脅しともなっていた11月20日解散・12月15日選挙説も、「もはや、そんな雰囲気はまったくなくなった」(自民国対)と消滅し、統一会派を組んだ立憲民主、国民民主両党などは「安倍政権を徹底的に追い詰める絶好のチャンス」と結束を強めている。

もちろん、これまでの閣僚辞任劇のほとんどが「野党やマスコミが騒いでも、一過性に終わってきた」(自民幹部)のも事実だ。内閣支持率は一時的には下がっても、騒動が収まると5割前後の高支持率に戻ることを繰り返してきた。それだけに今回も「11月にも天皇即位に伴う皇室行事があるので何とか乗り切れるはず」(官邸筋)と楽観視する向きもある。しかし、党内では「安倍政権にとっては、まさにオウンゴールの連続で、史上最長政権を祝うような状況ではなくなった」(岸田派幹部)との危機感も少なくない。

河井氏辞任について首相は31日午前、疲れを隠せない表情で「菅原氏に引き続いて河井氏が辞職する結果となったことについて、厳しいご批判があることは真摯(しんし)に受け止めなければならない。内閣として、また首相として、より一層身を引き締めて行政の責任を果たしていきたいと決意している」と頭を下げた。また、菅官房長官も同日午前の記者会見で「厳しい批判をきちんと受け止める必要がある」と表情を引き締めた。

今回の連続辞任劇は「安倍・菅ラインでのお友達人事の破綻」(自民長老)ともみられるだけに、「政局の潮目が変わるきっかけ」(同)となる可能性も否定できない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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