トランプ大統領の弾劾調査は新次元へ進んだ 下院弾劾は確実、上院も裁判実施は不可避に

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弾劾調査の証言に向かうウィリアム・テイラー駐ウクライナ代理大使(写真:REUTERS/Carlos Jasso)

10月16日、ミッチ・マコネル上院院内総務は上院共和党議員に対し、下院での弾劾成立を想定し、上院での弾劾裁判に備えるよう語り、プロセスについてパワーポイントのスライドで説明したという。トランプ氏も下院での弾劾成立を覚悟しているようだ。しかし、罷免の行方を左右する最も重要な要素は、共和党が大統領を支え続けるかどうかだ。

下院への証言で新事実が判明する中、共和党穏健派の中からトランプ氏を批判する動きが出始めた。

例えば、2020年大統領選にも出馬の可能性が噂されてきたジョン・ケーシック前オハイオ州知事は大統領の下院弾劾を支持している。今期で退任を発表したフランシス・ルーニー下院議員(フロリダ州選出)も弾劾を支持するかどうかは検討中であるものの、大統領の行為に批判的なコメントをしている。また、リンゼー・グラム上院議員がアクシオスのインタビューで、ウクライナ疑惑をめぐる明確な「見返り」が判明した場合、弾劾を支持することを示唆した。

上院共和党で大統領を守るダムが崩れるリスクとなるのが、①激戦州出身の議員(スーザン・コリンズ議員、コリー・ガードナー議員、ジョニ・アーンスト議員など)、②2018年に当選したばかりの議員(ミット・ロムニー議員など)、③退任する議員(ラマ―・アレクサンダー議員など)だ。民主党上院議員47人と4人以上の共和党上院議員と合わせた過半数が支持する見通しのため、弾劾公訴の棄却は退けられる可能性が高く、上院の弾劾裁判は実施されると予想される。

共和党支持者のトランプ支持率はなお高い

こうした中、トランプ氏は10月21日の閣議で、弾劾調査は民主党による党派的行為であるとし、改めて共和党の団結を訴えるなど必死だ。上院では20人の共和党議員の離反を必要とするため、今のところ弾劾が成立する可能性は低い。

最近、弾劾への国民の支持は全般的に高まりつつあるものの、支持政党によってその割合は大きく異なる。ファイブサーティエイト(10月25日付)によると、弾劾を支持するのは民主党支持者では83%、無党派では48%に上るが、共和党支持者では11%に過ぎない。

トランプ大統領の支持率は41%と弾劾調査開始時点から1%しか下落していない。ギャラップによると共和党支持者の間では87%が支持し、共和党上院議員を選出している州では大統領の支持率は平均50%に達し、上院議員の支持率よりも高い州が多い。

トランプ氏の支持率が高いため、共和党議員はまだ誰も明確に弾劾を支持していない。共和党の上院議員にとっては、自らの再選に影響を及ぼす共和党支持者や無党派層など有権者の世論が重要だからだ。ウクライナ疑惑の内容自体についてはほとんど沈黙を守っている。

共和党議員の多くは、下院民主党主導で国民には極秘に捜査を進めていることなどプロセスを批判することに集中している。10月23日には約40人の共和党議員が小部屋のSCIFに押し寄せ、一部共和党議員も参加が認められているにも関わらず、証言者の聴取に参加を要求するなどして、有権者にアピールした。

20世紀初めに活躍したジャーナリストのカール・サンドバーグ氏は「もし事実が不利であれば法律を議論せよ、法律が不利であれば事実を議論せよ。もし事実も法律も不利であれば、テーブルを叩き怒鳴り散らせ」といった名言を残した。共和党議員の言動を民主党下院議員は「テーブルを叩き怒鳴り散らしている」と揶揄している。

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