トランプ大統領の弾劾調査は新次元へ進んだ 下院弾劾は確実、上院も裁判実施は不可避に

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トランプ大統領の弁護士を務めるジュリアーニ元ニューヨーク市長。影の外交ルートを仕切っていたのか(写真:ロイター/Shannon Stapleton)

複数の証言者から明らかにされたのは、正規ルートである国務省のキャリア官僚とは別に、トランプ氏の指揮のもとで、自らを「3人のアミーゴ」と称する、トランプ氏に近い政治任用者がウクライナ政策を担っていたことだ。ゴードン・ソンドランド駐EU(欧州連合)大使、カート・ボルカ―・ウクライナ特使、そしてリック・ペリー・エネルギー長官である。

さらに証言から判明したのは、「3人のアミーゴ」の背後には大統領顧問弁護士を務めるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長がいて、対ウクライナ政策に大きく関与していたことだ。

ゼレンスキー氏がウクライナの大統領に就任した3日後の2019年5月23日、ホワイトハウスでソンドランド駐EUアメリカ大使をはじめウクライナを担当する政府高官がトランプ大統領と面談し、ゼレンスキー氏のホワイトハウス公式訪問などを提案した。そこで、トランプ氏ははジュリアーニ氏を通すよう指示したことが明らかとなっている。つまり、「3人のアミーゴ」と大統領顧問弁護士のジュリアーニ氏による「影の外交」ルートが正規ルートとは別に構築されていたのだ。

7月10日にソンドランド駐EU大使とウクライナ政府高官との会合に出席したボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、同席していたフィオナ・ヒル国家安全保障会議(NSC)欧州ロシア上級部長(当時)によると、「ソンドランド駐EU大使とマルバニー大統領首席補佐官代行が細工している”麻薬取引”には関与しない」と激怒したという。麻薬取引とはウクライナ工作のことを指し、ボルトン氏はこのことを、NSCの弁護士に報告するようヒル氏に指示したという。

本来、外交政策は当該国に詳しい国務省などのキャリア官僚の助言のもとで、政治任用の政府高官が判断する。だが、トランプ政権下でウクライナ政策にはトップダウンの判断が下された。しかもキャリア官僚ではなくジュリアーニ氏の管轄となっていたことが示唆されている。ジュリアーニ氏はウクライナで商売を行っており、利益相反になるうえ、トランプ氏の次期大統領選挙のための政治的な思惑で動いていた可能性が疑われている。

キャリア官僚は民主党そして共和党のいずれの政党にも仕え、自らの政治思想よりも政権の政策を優先して国益のために動くのが通常である。したがって、今回のように政権の反対を押し切って議会で証言することは異例だ。影の外交ルートに懸念を示し、証言するほうが国益にかなうとキャリア官僚は判断したといえよう。

ウクライナへの圧力はむしろ国益に反する

トランプ氏の政権運営は「トランザクショナル(transactional)」と描写される。これは中長期的な戦略に基づかず、個別ディールの成立を主目的に、相手の出方を見ながら種々の駆け引き(transaction)を駆使しようとする外交・通商交渉のスタイルを指す。

過去の政権でも各国との交渉で、ある行為の見返りにその国を資金援助するといったことは確かにあった。オバマ前政権のジェン・サキ元ホワイトハウス報道部長はCNNの番組で「人権問題に取り組み、対策が進展することの見返りに、軍事支援を拡大する」といったことはよくあるアメリカの外交政策だと語った。しかし、この例に見るように、これまで「見返り」として要求されたのはアメリカの国益にかなう行為であったのに対し、今回は大統領再選などトランプ氏個人の思惑によるもので、その性質は大きく異なる。

また、アメリカも加盟する北大西洋条約機構(NATO)入りを望むウクライナに対し、ロシアの脅威から同国を守る目的で、軍事支援をアメリカ議会は承認している。したがって、見返りを要求して軍事支援を遅らせることは、ウクライナの安全保障を脅威にさらし、アメリカの国益にむしろ反するものであった。

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