日韓関係の「関係改善の糸口」はどこにあるのか ムン政権が「GSOMIA終了」を決定した背景
そのような中で起こったのが、日本による貿易管理運用の見直しである。安倍政権が「ホワイト・リスト」からの韓国除外を閣議決定した8月2日、文大統領は日本が「わが経済の未来の成長を防ぎ打撃を加えようというはっきりとした意図を持っている」としたうえで、「われわれは2度と日本には負けません」と述べた。8月15日の光復節演説では、「誰も揺るがすことのできない国」を目指すとの決意を表明した。
こうした大統領発言からは、韓国はもはや、かつてのような小国ではないとの自己認識と、それでもまだ日本の措置で揺らいでしまうことへの忸怩(じくじ)たる思い、そして日本への強い不信感が文政権の中で複雑に共存していることがうかがえる。
GSOMIA終了決定の理由として「国家的自尊心」が語られたのは、日本が依然として韓国を小国扱いしているとの認識に基づく不満の表明であり、強い異議申し立てなのである。
苦悩深まる中国との関係
第3に、日韓の外交安保戦略で現在大きく異なるのが中国との関係である。2010年以降の尖閣諸島をめぐる中国との緊張関係により、日本は中国を軍事的脅威と認識し、南西方面の防衛力強化を目指してきた。その一方で、近年は日中首脳レベルが往来して関係改善も進み、「競争から協調へ」との精神がうたわれるようになった。中国側は日中関係が「正常な軌道に戻った」と評価した。
このような日中関係の軌道と対照的ともいえるのが中韓関係である。日本から「対中傾斜」と非難されるほど良好に見えた朴槿恵政権期の中韓関係は、2017年春の朴大統領弾劾政局とともに進んだ韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配置と、中国の対韓報復的措置により大きく悪化した。
文在寅大統領は中韓関係改善を目指して就任初年度の2017年12月に中国を国賓訪問したが、十分な成果が得られたとはいえない。むしろ文大統領訪中前に、①THAADを追加配備しない、②アメリカのミサイル防衛網に加わらない、③日米韓三ヵ国の軍事同盟を構築しない、という三原則で中国と合意したことが、国内外で物議を醸した。THAAD配置時の報復に加え、中国からもたらされる深刻な大気汚染により韓国民の対中認識は悪化したままである。
それでも、韓国の外交安保戦略において対中関係の重要度が高いことは「米中G2」という認識からも明らかである。経済成長を輸出に大きく依存する韓国にとって、最大の貿易相手国である中国との安定的な経済関係は高い優先順位を占めるが、米中貿易摩擦は韓国経済に否定的影響をもたらしており、深刻な懸念材料である。
加えて、文在寅政権が現在進める朝鮮半島の「平和プロセス」にとって、中国の存在が大きな課題となっている。米朝関係と南北関係の改善によって平和プロセスを進めたい文政権の意図と努力に反する形で、北朝鮮は非核化措置を取らずにプロセスは停滞し、中国がプロセスへの介入を深めている。
6月20日の習近平国家主席訪朝を受け、中国の対北朝鮮経済支援はさらに進むことになる。それは北朝鮮にゆとりを与え、非核化には否定的影響となろう。
第4に、対米同盟への認識と政策も日韓間では乖離が進んでいる。2000年代以降、日米同盟は「統合」と「深化」が進んだが、他方で米韓同盟は大きな流れで見れば、韓国がアメリカから相対的に「自立」するプロセスを歩んできた。
在韓アメリカ軍が韓国軍の支援にまわる「韓国防衛の韓国化」の進展や、盧武鉉政権期の2007年に1度合意した戦時作戦統制権の移管(2012年4月の移管でアメリカ側と合意したが、李明博、朴槿恵政権が移管延期を要請)は、そのプロセスの一環である。韓国内では戦時作戦統制権の移管は「自主」「自立」の象徴と見なされる傾向が強い。
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